18 静寂の侵略
「出せたではないか。神気。……話に聞いていたより些か控えめだったがな」
地面に座り込んだゼフィルとカイは、荒い息を整えていた。
「今のが……神気?」
「おそらくそうだろう。偉大なる植物学者が予測したように、神気の源が魔素ならば――境界が歪めば歪むほど、お前の力は強まるのではないか?」
「だが、どうやって出せたのか分からん」
「お前に足りないのは、戦士としての気概だ」
「そんなもの、あるはずがない。俺はしがない学者だ」
ゼフィルの自嘲をよそに、ドライアドが眉をぴくりと動かす。
「……私は行く。お前も来るか?」
俯きながら首を振るゼフィル。
「俺は足手纏いだ。行かない」
鼻で笑ったドライアドは、それ以上何も言わず踵を返し、疾風のように走り去った。
「またどこかで、異界の住民が現れたのかな……」
「おそらくそうだろう」
二人は立ち上がり、静かな足取りで大通りへ出る。
「うわ……」
カイが息を呑む。
いつもは賑やかな通りに、獣人たちが次々と倒れていた。
往来するはずの人影も、馬車もない。
子どもの笑い声どころか、鳥の囀りすら聞こえない。
圧倒的な静寂。
「これじゃ……一方的な侵略じゃないか」
カイの声は低く震え、拳は固く握りしめられていた。
「ゼフィル……もう一度、種を見たい。今度は、ちゃんと向き合いたい。付き合ってくれるか?」
ゼフィルは一瞬黙し、それから小さく頷いた。
「……あぁ、いいだろう」
二人は巨大温室へと歩を返す。
その背に、静寂がさらに濃く降り積もっていった。