表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/23

15 芽吹の兆し

 ゼフィルは自分の掌を見つめていた。

 夜、巨大温室が静まり返った後、カイとドライアドと三人で「神気」を試すことになったのだ。


 腹の奥に、もやもやとした気配。これが神気なのか――。

 ゼフィルは手を突き出し、力を込める。


「……はぁっ!」


 星々の煌めき、虫の声。

 バッタが足元を跳ねる音だけが虚しく響いた。


 ゼフィルは手のひらを睨みつける。

「どうやって出すんだ」

「神気は龍神特有の力だ。私が知るわけないだろう」ドライアドは平然と答える。

「そんな不確かなもののために、俺は一日寝ていたのか」

「ま、そのうち出るだろう。では帰る。じゃあな」


 カイが駆け寄り、ゼフィルの背を押す。

「ゼフィル、とりあえず今夜は休もう」

「腹のあたりがもやもやするんだ。これが神気ではないのか?」

「胸焼けじゃないの?」

「……そうかもな」


◇◇◇


 翌朝。

 大きなジョウロを手に温室に立つと、研究員たちが次々に挨拶をしてくる。


「室長、おはようございます」

「おはよう」

「おはようございまーす!」

「ふふっ、おはよーう」


 人の波が引き、カイは数を数える。

「……三人いない」


 アゼルの失踪以降、研究員には朝の点呼を義務づけていた。

 だが今日、連絡なしに三人が来ていない。


「室長! 三人、連絡が取れません!」

 休憩室から声が飛ぶ。

「保安院に連絡して!」

「はい!」


 ただの寝坊であってほしい。大人が一日連絡が取れないくらいで通報するなんて、と、小言を言われる程度で済んでほしい。

 だがもし異界の住民に攫われているのなら、保安院では手に負えない――。

 どうか、なんでもありませんように。


◇◇◇


 赤い光だけが灯る暗室。

 カイは遮光箱を開き、真空瓶を取り出した。中にはあの種。


 発芽条件はわからない。だが少しでも成長を遅らせたい一心で、ここに閉じ込めていた。

 震える手で瓶を掲げる。


 ――硬い茶色の殻を押し破り、薄い二葉がのぞいていた。


「……っ」


 カイは言葉を失い、その場に座り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ