15 芽吹の兆し
ゼフィルは自分の掌を見つめていた。
夜、巨大温室が静まり返った後、カイとドライアドと三人で「神気」を試すことになったのだ。
腹の奥に、もやもやとした気配。これが神気なのか――。
ゼフィルは手を突き出し、力を込める。
「……はぁっ!」
星々の煌めき、虫の声。
バッタが足元を跳ねる音だけが虚しく響いた。
ゼフィルは手のひらを睨みつける。
「どうやって出すんだ」
「神気は龍神特有の力だ。私が知るわけないだろう」ドライアドは平然と答える。
「そんな不確かなもののために、俺は一日寝ていたのか」
「ま、そのうち出るだろう。では帰る。じゃあな」
カイが駆け寄り、ゼフィルの背を押す。
「ゼフィル、とりあえず今夜は休もう」
「腹のあたりがもやもやするんだ。これが神気ではないのか?」
「胸焼けじゃないの?」
「……そうかもな」
◇◇◇
翌朝。
大きなジョウロを手に温室に立つと、研究員たちが次々に挨拶をしてくる。
「室長、おはようございます」
「おはよう」
「おはようございまーす!」
「ふふっ、おはよーう」
人の波が引き、カイは数を数える。
「……三人いない」
アゼルの失踪以降、研究員には朝の点呼を義務づけていた。
だが今日、連絡なしに三人が来ていない。
「室長! 三人、連絡が取れません!」
休憩室から声が飛ぶ。
「保安院に連絡して!」
「はい!」
ただの寝坊であってほしい。大人が一日連絡が取れないくらいで通報するなんて、と、小言を言われる程度で済んでほしい。
だがもし異界の住民に攫われているのなら、保安院では手に負えない――。
どうか、なんでもありませんように。
◇◇◇
赤い光だけが灯る暗室。
カイは遮光箱を開き、真空瓶を取り出した。中にはあの種。
発芽条件はわからない。だが少しでも成長を遅らせたい一心で、ここに閉じ込めていた。
震える手で瓶を掲げる。
――硬い茶色の殻を押し破り、薄い二葉がのぞいていた。
「……っ」
カイは言葉を失い、その場に座り込んだ。