13 異界の海
水の中に投げ出されたようだった。
水面に背中を打ちつけ、激痛が走る。
抗う間もなく、そのまま深く沈んでいく。
助けを求めようと口を開くが、声は泡となって水面へ昇っていった。
伸ばした手に、誰が気づくというのか――。
◇◇◇
やがて背が海底に触れる。
なんとか体勢を立て直し、手で水を掻くと、ぎこちなくも歩けることが分かった。
不思議と呼吸はできる。
「……龍神は水を司る、か。血のせいか?」
これまで頭まで水に沈んだことはなかったが、今は呼吸に支障はない。
遠くに気配を感じ、近くの岩陰に身を潜める。
自分よりも大きな魚が三匹、悠然と通り過ぎていった。
下顎から突き出る鋭い牙――あれに狙われればひとたまりもない。
魚影が去ったのを確認して、再び歩き出す。
ここはどこだ。
なぜ俺はここにいる――。
頭の奥が靄に覆われたようで、思い出そうとしても焦点が合わない。
ふと頭上を魚の大群が横切り、その壮観に気を取られる。
◇◇◇
『………! ………!!』
鋭い声。言葉は分からない。だが、本能で「良くない」と察した。
振り返った先にいたのは――魚人。
尾鰭を持ち、逞しい上半身。
顔の造形は獣人に近いが、耳は魚の鰭そのもの。
瞬きのない大きな瞳がこちらを捕らえている。
四、五人……いや、奥にもっと。
槍を構え、こちらを指差した。
慌てて逃げる。だが二本足の動きは鈍い。
尾鰭を持つ魚人に敵うはずがない。
長い銀髪が引かれる。
背後から強く掴まれた。
『……ツガイ……!!』
腕を押さえつけられ、口を覆われる。
水中に、抵抗の声は響かない――。