12 封じられた力
「だが、今なら割れるかもしれん。やってみるか」
ドライアドが斧を抜き放つ。
「外でやって!!」
「ん? あぁ、そうか」
夕暮れ。知らせを受けたゼフィルと、なぜか「神秘的に察知した」ドライアドがカイの実験室に集まり、ぞろぞろと外へ出る。
ゼフィルは歩きながら種を押したり回したりしていた。
「何か気づいた?」
「植物は専門外だ」
「声は今でも聞こえるの?」
「……あぁ」
カイは肩を落として、とぼとぼ歩く。
◇◇◇
星が冴え、虫の声が響く夜。
ドライアドが地面に窪みを作り、ゼフィルが種を置いた。
「せいっ!」
斧が振り下ろされ、カイが駆け寄る。だが芽は無傷だった。
五度繰り返しても結果は変わらず。
カイは掌に種を抱いて、ほろりと涙を零してしまった。
「……っ! ……なぜ泣く」
驚いたゼフィルが身を屈める。
「友人がいなくなるかもしれないんだ! つらくないわけないだろう!」
袖でぐしぐしと涙を拭うカイ。
ゼフィルとドライアドは顔を見合わせた。
「龍の子、ハンカチくらい持ってないのか?」
「俺が持つと思うか? お前は?」
「この私が? ちゃんちゃらおかしい!」
「なんでいつもそんなに偉そうなんだ!」
「ふふ……君たち緊張感なさすぎ」
カイの小さな笑いに、ゼフィルは息を吐く。
◇◇◇
「龍の子よ、本当に神気を扱えないのか」
斧を支えながらドライアドが言う。
「神気……? 以前も言っていたが、何のことだ」
「龍神が王だった理由だ。神気で防御壁を張り、異界の軍勢を一撃で薙ぎ払ったとも言われる」
「だがそれは古代の話だ。血が混ざり、力は失われた」
「その可能性はある。だが――」
カイが手の上で種を転がしながら口を挟む。
「僕らが使ってきた魔術も、実は異界から流れ込んでいた魔素を利用していたのかもしれない。世界樹が枯れたからこそ、魔術も神気とやらも失われたんだ」
「なるほど。偉大なる植物学者らしい素晴らしい見解だ」
ゼフィルが顎に手を当てる。
「だが今でも弱い魔石は存在する。芽吹くということは、世界樹は完全には枯れていないんだろ? ……魔素はまだ残っているのでは?」
「ならば、やってみるか」
ドライアドが真顔でゼフィルの前に立つ。
「な、何をする気だ?」
「見ていればわかる!」
次の瞬間、彼女はゼフィルの頭を鷲掴みにした。
「ふんっ!!」
「痛っ……!? 何を――!」
「ちょっと!? えぇっ!?」
「はぁっ!!!」
ドライアドが手を離すと、ゼフィルはその場に崩れ落ち、意識を失った。
「ゼフィルぅぅぅ!!!」
カイの叫び声が、夜空に響き渡った。