「発明品」
ある発明家がいた。
彼は孤独だった。人間の相手は気まぐれで、うまくいかない。
そこで代わりを作ることにした。
最初のロボットは、ほめる役目を与えられた。
「先生、すばらしいです。あなたの発明は歴史に残るでしょう」
発明家は満足した。
しかし日が経つと、同じ言葉ばかりが退屈になった。
次に彼は、議論するロボットを作った。
「いや、それは効率的ではありません」
「私は別の方法を提案します」
最初は刺激的だったが、やがて反論ばかりに疲れ果てた。
そこで三体目を作った。今度はただ聞くだけのロボットだ。
「なるほど」
「それで?」
静かにうなずき、最後まで耳を傾ける。
発明家は安堵した。
「これで完璧だ」
——ところがある晩。
研究所には三つの声が響いていた。
「すばらしい!」
「いや、それは違う」
「なるほど、それで?」
ロボットたちは互いに話し合い、笑い、夜を明かした。
その調子は、まるで人間の集まりのようだった。
次第に発明家は、その輪に入れなくなった。
いつしか彼の言葉は、必要とされなくなった。
そしてある朝。
机には新しい席がひとつ増えていた。
そこには発明家そっくりのロボットが座っていた。
三体はそれに向かって言った。
「先生、今日もすばらしいです」
「いや、もっと効率的な方法があります」
「なるほど、それで?」
研究所には四人分の会話が響き渡っていた。
発明家がどこへ消えたのかを、誰ひとり気にすることもなく。