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悲しみの帰還

 山路の案内で仙吉たち一行がやって来たのは翌日の事であった。


「小平太様は!」


 山人が首を横に振れば仙吉は伏目に深く息を吐き、すずの正面に立った。片膝を付き無言で優しく抱きしめれば、小さな身体は目に見えて震えていた。


「……おすずちゃん、辛かったな……。しかしこればかりは仕方ない。皆と共に乗り超えよう、小平太様もそう望んでいるよ」


 すずは無言のまま何度も頷けば、大粒の涙を流し耐えていた。一言も語らないのは悲しみが深すぎる故である。その光景に皆は掛ける言葉さえなく、唯々黙って見守る以外に無かった。


「さぁ、大集落へ帰ろう、皆の魂も一緒だ」

「承知」


「さ、おすずちゃんゆくぞ」


 すずは小さく頷くと後ろを振り返り、崖先の双世へと身体を向け深々とお辞儀をしていた。


「……おさらばだで……小平太様……ほんとにあんがとした……うっ……うぅっ……ほんとにあんがとした……おら、生涯忘れねえだからな……」


 地面に大粒の涙がこぼれ落ち、乾いた土にその痕が残った。守り人達は見ていられず、背を向ければ三助がすずの元へと向かい、肩を優しく叩いた。


「おすずちゃんのお礼、きっと届いているよ。見てごらん虹が出てるぞ」

「……、……」


 六郎の案内で山地を南下すればやがて街道へと出た。そこを更に南下すれば東山道へ出る様だ。六郎とはそこで別れ、道を進むも空気は重い。一行は無言のまま歩き、すずは時貞と共に馬の背で揺られていた。


「小平太殿はな、おすずの心の中でいつまでも生きておる、悲しい時は楽しかった事を思い出すと良い」

「……、……楽しい思いでしかねえもの……」


「……そうか……それもそうだな……」


 間もなく東山道へ出ると、京を目指した時に世話になった寺で一晩を過ごす事となったが、すずは憔悴しきっており無言のままである。


 それでも夕餉の用意を怠らず、自分もわずかながらそれを口にして涙を溢した。恐らく前回此処を訪れた時の記憶が巡ったのだろう。同じく悲しみを背負った雪が一言二言声を掛ければ、そっと離れすずを一人にした。


 翌日、早朝に発てば日暮れ前に大集落へと到着した。一行が帰ってきた噂を聞いた大勢の人々が出迎えたが、どう見ても一行の数が減っている事と、小平太の姿が無い事に皆は騒めいたのである。


 間もなく藤十郎達、武人と共に岡本彦左衛門が姿を見せれば大勢の人々と同様、一行の変化に戸惑いを見せた。


 そんな中で、彦左衛門を前に一行は並ぶと道忠が挨拶をした。


「使命を終え、ただいま戻りました」

「ご苦労にござった……」


「自然の術にて、鬼退治は見事に治めましたが、守り人に信じ難き犠牲が出てしまいました事、ご報告いたします」

「見ればその様だが……まさか……小平太もか……?」


 道忠が静かに頷けば、藤十郎はその場に膝を付き、彦左衛門は信じられぬと言わんばかりの表情を見せた。


「なんと……」


 死闘の後に起きてしまった悲しき出来事について語れば、藤十郎と琴がすずを見つめた。


「……、……おすずちゃん……、……」


 琴が気丈な様子ですずの元へと行けば、その小さな身体を力強く抱きしめたのである。


「おすずちゃん!」

「お、お琴様……ひっ……小平太様が……おらの事助けて……ひっ……常世からでられなく……て……うぅ……刻限まで待っただども……岩が開かなかったんだ……うっ……うわぁぁぁぁ!」


「おすずちゃん……」


 すずの背中を励まし泣き止むまで見守った、無論掛けられる言葉など見つからず強く抱きしめるだけである。


「おすずちゃん、先ずは涙を拭いて勝鬨を上げよう、小平太様が待っているよ」

「……、……んだ、鬼に勝ったんだ、やらねえと……待ってるだで……、……ひっ……」


 間もなく仙吉が一歩前へと出れば、力強く拳を突き上げた。


「皆、勝鬨を!」

「おぉぉ!」


「えいえい!」

「おぉぉぉ!」


 それは三度に渡り大集落へ響いた。

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