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仕込み

 妖はその後、呪師の術を使い人の魂を喰いつつ、目に見える人助けを続ける事で人々の信頼を得たようだ。


 五年もすれば聖者として、更なる名声をものにした。しかし人間の身体には寿命が伴う、やがて妖は跡目を決めるとその者の身体を乗っ取った。


「なるほどな、そうして今まで繋いだか」


 初代の呪師はその場に倒れれば、瞬く間に干乾びて行った。弟子たちは慄くも、二代目を継いだ妖がこれこそが生前力を使い切った証だと説き伏せたのである。


 妖が乗っ取っている間、その人間は辛うじて生きてはいるのだが、己の意志ではない。全ては乗っ取られ妖のものとなっている。そして妖がその身体を離れた時、すべての養分は吸い取られ、乗っ取られていた者は干乾びてしまうのである。


「以来七百年、それを繰り返し今に至ると」

「なるほどな、呪師の術と知識は妖を通し引き継いだという訳か」


 地位と名声を手に入れ、数百年から百数十年に一度開く常世の戸開きを待てば、慎重に計画を試みたようだ。しかし、鬼が育つも番人と自然の術師に阻まれ計画は上手くいかなかった。


「ところで、自然の術について何故詳しく知ったのだ?」


 自然の術により既に三度、失敗に終わっていた。故に妖はあの不思議な光体を操る術師が何者なのか手を尽くし探したが、術者本人すら知らないのだから、番人以外に見つける事は不可能である。かと言って、番人に近づきその身体を乗っ取るなど出来る訳もない。


 妖は一度番人を乗っ取ろうとして酷い目に遭っていたのだ。新たな人間を乗っ取るには一度その身体から出て身を晒さなければならない。


「本体を晒せば、番人の霊力にも晒される事となる」

「故にあと一歩のところで切られるところだったようです」


「あ! そうか! こいつ逃げ足の速い謎の妖って奴だ」


 切り損じた番人が伝え残した謎の妖が、まさにこの妖の事であった。この世で言うところの狐を大きくしたような姿で、表情は醜く逃げ足は俊足との事であったようだ。


「で、しばらくして四度目が来たと」

「民衆に紛れ鬼退治をする道雪殿の顔を覚え、隙をついて乗っ取ろうと考えたようです」


 番人に見られず乗っ取るには、慎重に機会を伺わなければ命取りと成る。しかし、術者は番人達と共に旅立っていったのだ。


「見失ったのか?」

「いいえ、策を講じておいたようです。弟子の者が礼をしたいと伝えれば、用を成した後に戻ると言い残し、実際に六日後に戻って来たようです」


 それは鬼切を返しに双世の洞窟まで往復したものに間違いない。番人はなく道雪一人が戻れば、妖は計画を実行したのである。


「先ず、六日前に跡目を指名しており、己の命は僅かだと宣告したようです」

「なるほどな、道雪の身体を乗っ取れば前の者は急死となる、ならば予言よろしく伝えておいて損はない」


 道雪が帰った事を知り身体を離れれば、社では大騒ぎとなった。妖は堂々とそこを離れると、いとも簡単に道雪の身体を乗っ取ったのである。


「なんと……道雪は乗っ取られたのか」


 目の護符など持っていない為、道雪は瞬く間に乗っ取られれば、妖はその知識を手に入れた。ならば双世へと行き大岩戸を開け、鬼切を破壊するだけである。


 しかし通常であれば、乗っ取った者の知識や経験それに術など、すべてが手に入ったのだが、どういう訳か自然の術に関してはまるで扱えなかったようだ。


「なるほどな、自然の術は、その者の精霊による術、その者を乗っ取っても精霊までは乗っ取れないからな。で、再び待つ以外に策はないと知ったか」

「それ故、道雪殿の知識の方を利用したようです」


「それで鬼の書を用意したという訳か」


 この鬼の書を活かす為には、番人より先に術者と接触しなければならない。成功する可能性は極めて低いが何も手がないよりは良いと考えたようだ。


「故に、定期的に自然の術の特徴を神道者達に流布し、情報網を敷いたようです」

「神道者は全国を歩くからな、情報を流し得るに丁度良いという訳か」


 鏡においても、自然の術の一部を伝え聞いていたのはこの所為であったのだ。


「なるほどな、人の能力を超えた人物が居れば噂にもなろう。案の定、千弦も情報を求めた位だからな」


 千弦の問いが神道者達に伝われば、それは当然蒼天を乗っ取ったこの妖へも伝わった、そして今回見事、常世の戸が開いたのである。


「こいつにとっては幸運の連続となったようだ、当初はさぞや喜んだであろうな」


 しかし、その幸運は鏡の二人と守り人によって打ち消されたのであった。


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