鬼退治
予想通り夜間に仕掛けて来る事は無かった。警戒を高めつつ現場へと向かうも、不穏な動きは未だない。故に余計不気味に感じた。
「いよいよだでな、今度こそ本当に終わりにするだで」
「そうだな」
鬼は相変らず動く事叶わず呻き声を発しているが、呪師が何かを仕掛けてくる気配は未だなかった。
「すず! 襲われる前にすべて終わらせるぞ! 写し身が鬼切を手にした時点で鬼の拘束を解くからな」
鬼退治を前に、興奮気味の山路の声が響いた。
「わかっただ」
「我々も集中するぞ、鼠一匹見落とすなよ」
「承知」
間もなく月から光の欠片が舞い降りてくれば、それはすずの身体の大きさと同等になった。
少しして動きを確認して、にっこり笑って見せれば準備は完了である。が、上空より凄まじい速度で飛んで来る大量の何かが五十体ほど見えたところである。やはり写し身を出現させた瞬間を狙っていたのだ。
「ん? 天狗も居るぞ?」
「天狗が……何故だ? 何処から来たと言うのだ……」
六郎が驚くのも当然である。常世の戸には結界を張ったから妖が来れる訳が無いのだ。
「まさか……破られたのか……?」
「疑問はあとだ、先ずは倒すぞ」
守り人達は先を行き構えれば、小平太と山人はその場に留まり、すずの警護に当たった。
形代は大鷲を模しており、速度も速い。が、守り人達からすれば難も無い。六郎と山路は驚くべき光景に唖然としつつ、自分達も刀を抜いたところである。
「おいおい……凄えな……」
「なんという身体能力……特にあの二人どうなっておる……」
六郎が震える指先で示した先には、凄まじい速さで形代や天狗を切り落とす仙吉と仁平の姿があった。故に、小平太達の元まで辿り着ける敵は居なかった。
「切られた天狗さ勝手に燃えだしたで?」
「妖は亡骸を現世に残さない決まりがある」
死んだ天狗達の身体は自然発火し高温で何一つ残らず燃えて煙と化せば、常世の戸の方へと飛んでいった。
四半時と掛からず、すべてを始末すれば脅威は無くなった。
「呪師め、とうとう姿を見せぬようだ」
「手が尽きたか?」
「油断はするな」
「承知」
小平太の合図で写し身に鬼切を渡すと、山路は鬼の拘束を解いた。解かれた鬼は唸り声をあげるも動きは鈍い。写し身は躊躇う事無く鬼の元へと跳んで近づけば、いとも容易く二本の角を切り落としたのである。
「ッヴオォォォ!」
堪らず鬼が膝を付けば、写し身は素早く切り掛かりその大きな首を落した。天狗と同様に発火して燃え尽き、煙となれば戸のある方へと飛んでいったのである。
間もなくして写し身はすずの元へと戻ると、鬼切を返した。
「……凄かっただで……早業だな……」
そう言いつつ、鬼の体液が付着していないか確かめる目は真剣である。問題ない事を知れば布に包み紐を結び背中へと掛けたのである。写し身は褒められた事で笑顔を見せていた。
「では戸を閉めに行く」
「承知」
戸を閉めればすべてが終わる。呪師が姿を見せれば、すべての元凶を絶てるのだが仕方も無い、それ程に警戒心が強いのであれば、現状を知り出てくるはずもない。
全力で走り、九条大路の西の端まで行けば、常世の戸を目の前に六郎と山路は唖然としていた。
「やはり結界が破られておったか……新たな妖が入り込む前に張り直すぞ」
「しかし、助右ヱ門たちは?」
「あそこだ」
山人が指した先には、互いに切り合ったと見える亡骸が三体転がっていた。間違いなく呪師により呪術を掛けられたのだろう。
「くそぉ……呪師の野郎!」
「おいおい、それどころではない、岩戸が幾重にも封じられているぞ……」
「封じられた?」
岩戸は呪師による強い念が込められいる様だ、言われて見れば岩戸が動かないように縛り付けている念が薄っすらと見て取れた。
「道忠、解呪できぬか?」
「これは……、……無理かと……」
下手に解呪をしようものなら途端に呪いが発動しかねない、禍々しさと術の強さに道忠は後退った。
「何か他に策は無いのか?」
「術者を葬る以外にありません」
「しっ! 何か聞こえるぞ」
「これって……そうか! 呪師の呪言だっ! 皆、気を付けろよ!」
その瞬間であった。何かが空気を裂き凄まじい速度で飛んできたのである。
「全員避けろ!」
何かが一瞬にして通り過ぎれば、佐一の左腕が肘上からその場に落ちたのであった。
幻と成る才能には届かずとも、相当な使い手と言って間違いのない佐一が何一つ反応出来ずに左腕を落したのである。この事実に守り人の皆は一瞬にして気を引き締めた。




