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鬼退治を前に

 戸とその周囲には目立たぬよう札が張ってあり、明り取りはしっかりと閉じられていた。小平太が戸の前へと立てば中へと声を掛けたのである。


「御免」

「……何か用か?」


 戸に呪いが仕込まれて無いと道忠が合図をすれば、戸を蹴り飛ばし中の様子を伺った。生活感は一切なく、まさに隠れ家として使っているようだ。


「何者っ!」

「おっと、先ずはこれを受け取るが良い」


 小平太の背後から佐一が吹き矢を放てば、首元に刺さり呪師はその場に泡を吹いた。


 足元に転がる呪師をそのままに室内を見回せば、他に人の気配はない、しかし壁には札が有った。ならばこの呪師もまた見張られているという事となる。


 時貞がそれらを静かに解呪し無効にすれば、小平太は屋内へと足を踏み入れた。


「仁平、外を警戒してくれ、他にも呪師が居る様だ」

「承知」


「道忠よ、その者の懐にも目と耳があるかもしれぬぞ、解呪を強めにな」


 その言葉に道忠は静かに頷くと、解呪の後に懐を探った。時貞が指摘した通り札を見つけたのである。


 監視されていたのだから、この者を操る呪師が居る事は明白である。間もなく、言葉を発せられる位に解毒してやれば、呪師は目を剥いて怒鳴り声をあげた。


「お前ら何者か! 何故このような真似をする!」

「お前呪師だろうが、こうなって当然の働きをしているだろ?」


「何の話だ! 呪師など知るか!」


 周囲にはこの者が用意した護符が散らかり言い訳などしようも無い程に証拠があった、小平太がそれらに目をやれば呪師も察し諦めたようだ。


「お前の質問はそこまでだ、こっちも暇ではない」


 道忠が読めばこの者足しになる情報は一切持ち合わせていなかった。恐らくこの者を監視している呪師の捨て駒なのだろう。


「この者単なる監視役にございます。術は使えるようですが、何れも簡単なものだけに限られます」


 身近で形代を扱う位は出来るが、数日前に襲い掛かって来た形代の龍擬きはこの者ではなく本物の呪師が仕業であったようだ。


「で、その本物の呪師の居場所は?」

「一切解らず、事のやり取りは形代から細かく指示があったようで、本人とは会った事も無いようです」


「呪師め、随分と用心深いな。ん? ではこの者どうやって術を覚えたというのだ?」

「それも形代でした」


「なるほどな」


 何かしら情報を得ようと探ったが、有用な事は何一つない。仕方なしとその者に縄を掛け宿所へと連れて行けば役人に引き渡した。


「新たな情報は一切なしか」


 呪師の真の目的は写し身とすずを喰わせ、鬼を完全体にする事に違いはない。一度は番人によって阻止されたのだが、諦める筈はない。


 ならば、呪師は全力ですずの身柄を奪いに来る筈である。六郎が言うに写し身が鬼切を手にした瞬間に鬼の敗北は確定となる。ならば、その前に動くのは当然と言える。


「しかし、呪師めこの二日、一切動きを見せなかったぞ」

「おすずの姿が無い事に気付いたのだろう、慎重に見極めているに違いないからな」


 監視の札を全て除去できているとは限らない、ならばすずが帰還した事を呪師が把握している可能性があるのだ。


「ならば、今夜が要注意か?」

「こっちがそう考え警戒をする事は明白。ならば動くのは明日、鬼を討つ寸前かも知れん。それならこちらの警戒も薄いと考える筈だ」


 間もなく道忠は護符を用意すると、それに記を書き入れて念を入れたものを二枚ずつ守り人の全員へと配った。


「一枚目は呪い除けです、形代を解呪した事で、呪いの仕組みが解りました。形代の呪い程度でしたらこれで避けられます。ただし流石に呪師本人には効果が期待できませんからお気を付けください」


 二枚目は既に持っている護符で、現実を見る事が可能となる。間もなく効果が薄れるらしく、新しいものへと交換をしたのである。


 一応の警戒をしつつ、守り人達は静かに身体を休めた。

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