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月の神

 鬼切を差し出し見せれば六郎は大きく頷いた。


「間違いねえだか?」

「あぁ間違いなく鬼切だ。おすずと申したな、良くぞやり遂げた」


「これが鬼切……?」

「そうだ、紛れもなく鬼切」


「手に確かめなくて良いのか?」

「術者以外が触れれば瞬く間に瘴気に襲われる事となる、決して触れるなよ」


「だっ! ……おら大丈夫だか……?」

「術者であれば問題ない、では戸を閉めて引き返すぞ」


 大岩戸を閉めれば一行は出口へと走った。無事に小舟まで戻れば池を渡れば森を抜け崖を越えたのである。


「先ずは双世の障りを祓わなければならない、先ずは屋敷へ行く」

「障り?」


「常世と双世、それに妖共は人にとって害となる、故に茸湯で身を清めなければならない」


 朝餉を貰った家へと入れば皆に座る様に促し、家の者に茸湯を持ってくるように催促をした。


「少し休みついでに鬼切について話しておこう」

「それは興味深い」


 皆に茸湯が行渡れば六郎は一口飲むと、すずが手にしている鬼切に視線を送った。


「先ずはその鬼切だが、元なるは鬼の角だ」

「ぶっっ! げほっ! げほっ!」


 鬼の角と聞いた瞬間に、茸湯を盛大に噴きだしていた。間を置かず鬼切を身体から離すも、手からは離れないようだ。落ち着いて床に置けば自分は少し離れて座り直し不穏な表情を見せていた。


「とんでもねえ……おかしいと思ったんだ……」

「しかし何故角が鬼切に?」



 遥か遠き昔、鬼が大暴れをしていた世があった。当時の人々は霊力が高く鬼の姿が見えていたものだから、それは大騒ぎである。


 鬼を止める術はなく人々は逃げる以外に策はない、日々を怯えて暮らしていたと言うが、一人の勇敢な青年が日々、鬼へと向かい命がけで試行錯誤を繰り返していたと言う。


 そんな日々に日の神は見かねて、月の神へと解決するように求めたと言う。


「神々の話まで遡るのか?」

「そうだ」


 日の神は現世を守る神である。一方月の神は現世と常世の二つの世を守らねばならない忙しくもある神である。故に鬼の暴挙に目が届かなかったらしい。


「そこで月の神は、日々鬼と戦う青年の姿に解決策を見出した」

「月の神が鬼さやっつけちまった方が早いんでねえのか?」

「神と言え、叶う事と叶わざることがある」


 月の神は光りの姿となり地に降りれば、青年を前に鬼の倒し方を教え、さらには青年にとある力を授けた。


「その力こそが自然の術」

「……おら月の神様からの力を?」


「そうだ。自然の術者は以来、三十年に一人誕生する事となった」

「ん? ならば今、四十代の術者が何処かに?」


 六郎が言うに、術者は必ず重なるのが決まり事らしい。ただし、術者と言っても術力の強弱はある。故に有事となれば番人は術力の高い方の術者と接触するようだ。


「どうやって見分けるのだ?

「それも月が教えてくれる」


 月が示す光の強弱で術者の術力は計れる様だ。


 自然の術を得た青年は早速写し身を作ると、鬼との戦いを始めたと言う、生身の身体では触れる事さえ出来なかったが、青年の写し身は鬼に飛び乗り、立派な一本角を掴むと、渾身の力でそれをむしり取った。


「何かと思えば力技かよ……」

「最初の術者は直接月の神より力を授かった、故にその力も又、強大であったようだ」


 角を失った鬼はその場に倒れ散々に転げまわったのだが、写し身によって角で首を貫かれ絶命したという。


「鬼は不死なる存在。しかし唯一の弱点となる角を失えば不死ではなくなる」


 間もなく再び月の神が地へ降りれば、青年の持つ角に手を加えた。握りを作り、刀身となる部分は大胆に削り、月の力を保持する文様を彫ったのである。


 こうして月の神によって力を与えられた鬼切の実力は言うまでもない。写し身がそれを振るえば鬼の角は一刀のもとに落ちると言う。


「これが鬼切の誕生、我が村に口伝にて残された秘話だ」

「で、一つ素朴な疑問だが、鬼切を常世に置いておく理由は?」


「常世の力を失わない為だ」

「……って事はおらもう一度常世さいくしかねえだでか?」


「察しが良いな。」

「……とんでもねえ……」


 無論、番人としての素質を持つ者が生まれるこの村も、月の神が授けたものであった。


「という訳だ、準備も出来たようだそろそろ参るか」

「承知」


 行程分の行動食が用意されれば、それを馬の背に積み出立となった。鬼切は布に包みすずの背にあった。当初は嫌がっていたが、すず以外の者が触れてはならぬと聞けば仕方も無い。恐る恐る背に掛ければ悪寒が走ったようで身震いをしていた。

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