奇跡の脱出
分岐は間もなくとなる。どっちに行こうが不正解ならば行くところまで行くか、潔く留まるか。はたまた思い切って戻るか考えた。しかし戻るには振り返る事となる。
考えに考えた末、引き返し分岐点まで戻ろうと決めた瞬間であった。
「おすず! 待て! 戻ってはならぬ!」
(だっ! とっ! 徳蔵さんでねえか!)
すずはその声が誠か虚か確信があった。霊力も手伝ったのだが確実に徳蔵をそこに感じたのである。
「そうだ儂だ。振り返ってはならんぞ、大百足が追って来ておる」
(おおむかでっ! ……って何だでそれ?)
「百足に似た妖だ身体は恐ろしくでかい」
(うわぁぁ……百足のお化けだか……気持ち悪いなそれ……)
「それどころでは無い、でかい鋏を持っているから身体を真っ二つにされるぞ」
(だっ! とんでもねえ……ところで徳蔵さん何でここに?)
「此処は常世だ儂が居て当然であろう、そこは右だ」
すずは揺ぎ無く信じた。間もなく徳蔵の気配が己を通り過ぎればそれは、一尺ほどの光玉より人体化してゆき、在りし日の徳蔵の姿形を成した。
(徳蔵さんっ!)
「相変わらず奮闘しておるな。まさかこんな所まで来るとは正直驚いたぞ。それにこれほどの短期間で相当に強くもなったようだ」
(褒めただでな……ぷくく……、ところで、なんでおらが此処に居るって判ったんだ?)
「おすずの生きた魂を感じたのだよ。ただ事ではないと判ってな、すっ飛んできたという訳だ。おすずよ、このまま乗り来るぞ! 良いな!」
(わかっただ!)
徳蔵の背を追い走り続け、右へ左へと何処をどう行ったのかまるで分らない。途中で身体がやっと通れるほどの隙間をくぐる事もあったのだが、しばらく行けば間もなく双世で待つ皆の松明が目に入ったのであった。
「もう、大丈夫だ、このまま進むが良い」
(だ? 徳蔵さん? 一緒に行かねえだか?)
「儂はこれより先へは進めん、死んでおるからな。がははは」
(したら、此処でお別れだか?)
「あぁ、そうだ。おすずよ、何があったかは知らぬが、此度も又余程の大事である事は明白。己と皆を信じてその困難、必ずや乗り切るのだぞ。おすずなら間違いなく成せる」
(んだ……徳蔵さんが鍛えてくれた皆が居るだでな大丈夫だよ。んだ、大厄災のすぐあと仙吉さんと仁平さんと山人さんが幻に認められただでな)
「当然だな、三人とも抜きん出ていたからな」
(驚かねえだで、素質さ見えてただでな)
「そういう事だ、おすず達者でな! ほれ早く出ろ、大百足が来るぞ、儂は一戦交えねばならん」
(徳蔵さんっ!)
徳蔵のその言葉と共に背中を優しく押されれば、双世の洞窟へ戻ったのであった。背中には徳蔵の手の感触が残っていた。
「徳蔵さん……」
「おぉ、無事に帰ったか……ん? どうした?」
「ひっ……ひっく……あんがとした……」
帰還した途端に泣き出したものだから、四人は戸惑いすずを見ていた。
「どうした? 泣く程に怖かったのか?」
「違うんだ……徳蔵さんだで……徳蔵さんに助けて貰ったんだ」
「徳さんに?」
「おら、死んだおっかぁの声さ聞いて、順路さ間違えただで。したら徳蔵さんが来てくれたんだ……偽物でねえって全身で感じただよ。おらの事此処まで連れて来てくれたんだ」
「そうだったか……徳さんにまた助けて貰ったようだ」
「あぁっ! 徳さんだっ!」
「おいおい、何かでかいの仕留めたようだぞ」
「大百足だで」
常世側には大百足を仕留めた徳蔵が立っており、腕を高く振り上げていた。四人も腕を上げれば、徳蔵は大きく頷き程なくして消えて行った。
「徳さん常世でも最強だな……素手で倒したのかよ……」
「流石だな」




