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大岩戸の向こう

 行き止まりを左へと折れ途中で右へと入れば、天井も高く開けた場所へと出た。六郎が手を挙げて一行を止めると、守り人達も只ならぬ妖気に身構えていた。


「来るぞ。この気配、恐らく天狗だ」

「天狗?」


「見覚えのある挿絵との違いに驚く事になろうぞ」


 六郎は懐より何かを取り出し周囲へと投げれば、それらは灯りとなって周囲を照らした。その瞬間、凄まじい速度で一行の元へと飛んで来る何かが目に入った。


 すずを小脇に抱え避けると、それは空中で留まりこちらへと向き直ればニヤリと笑った。


「だっ! とんでもねえっ!」

「おいおい、絵で見るあの長い鼻は何処にいったんだ?」


 六郎の言う通り挿絵で見た事のある天狗とは明らかに違った。人型に違いは無いが、眼球は真っ黒で白目は確認できず、耳と鼻は二つの穴のみとなる、口は大きく裂けており幾重にも重なった牙が見えた。


 また痩せ細った身体の背には蝙蝠のような漆黒の羽が生えており、細い手足は異様に長く鋭い爪があったのだ。


「で、身体に纏っているあれはなんだ? しかも匂うぞ」

「他の妖の皮を着ておる。天狗は洒落ものだからな」


「だっ!」


 鬼や河童は半裸で描かれているのに対して、天狗が山伏の恰好をしているのは洒落ものが由来かも知れない。


 裁縫ではなく、皮を細く切り刻んだうえで笊を作る要領で織ったようだ。上手い事羽を除け身体に合わせて作ったのだから中々器用ではある。


「で、天狗は何が狙いなのだ?」

「皮だ、天狗からすれば人皮は最高級の素材だからな。ちなみに人の身体は喰わぬから安心だ、生きたまま剝がしにかかるからな」


「逆に酷えでねえか……」


 六郎は笑って見せれば、同時に術も放っていた。術によって縛られた天狗は墜落し足掻きつつ醜い怒声を荒げた。


「儂らが去るまで大人しくしておれ」


 さらに術を掛けたのは口封じのようであった、仲間を呼ばれれば流石の六郎でも厄介となるらしい。


 六郎は先ず振り返り先ほど走り来た洞窟の隣を指させば、その先が常世への抜け穴と繋がっている事を教えた。そこは複雑に入り組んでおり、入った者は誰一人戻らなかったと言う。


 向き直りそのまま歩き進めば、行き止まりとなる岩壁の前で止まった。


「此処が鬼切への入り口だ」

「これが大岩戸か……」


「だぁぁ……でっけえ……本当にこんなでかい岩さ動かせるだか?」

「訳も無い筈だ」


 松明によって照らされた大岩戸の迫力に驚くばかりである、しかもその大岩を身体の小さなすずが動かすと言うのだから想像に難しい。


「この大岩戸を開けた向こうに鬼切がある。その前に娘よ、これから説明する事を良くと覚えて貰う。極めて重要だ」

「なんだで……良い予感がまるでしねえ……」


 六郎は大岩戸へと手を触れれば、神妙な表情を見せた。


「この大岩戸を開けた先は常世となる」

「なに? 常世だと?」


「だ?」

「そうだ、しかもそこには一人で行って貰う他ない」


「……、……おら、一人でだか……?」


 今は常世の戸が開き、どちらの存在も干渉できてしまう状態なのだが、それ以上に問題なのが、常世にとって生身の人間は異物でしかないという事実である。


「それ以外に方法はない」


「一緒に行き妖を始末してはどうだ?」


 六郎は首を横に振った。


「鬼神の如し体術を持っていたとしても、あっという間に囲まれて終わりだ。常世の妖を軽く見ない方が良い」

「一人で行く以外無いのか?」


「気持ちは解るが、ない」


 六郎の言葉にすずは素っ頓狂な顔をしていた。常世が如何なるところかは聞いていたし、この双世を体験しているのだから想像も出来よう。道忠が死んで魂とならない限り行く事は無い、と言っていた言葉が蘇ったところである。


「生きたまま行く事になっちまっただか……どうすんだこれ……」


 本来であれば絶叫したいところだが、如何なる妖を呼んでしまうか判らぬ以上、我慢せざる得まい。一人ふるふると身震いをしていた。


「良いか、道順を言う。しっかり覚えるのだぞ」

「い、嫌だとは言えねえ状況だでな……、……でも、もしかしたら言えるだか?」


 六郎は首を横に振りながら笑顔を見せた。


「物分かりが良いな、稀に見る良き娘だ」

「……、……本心だでか……?」


 六郎はそのまま道順を口にし始めた。


「先ずはこの場所と同様に広い所に出る、真っすぐ進み行くと二股となる。そこを右に」


 すずは己の両手を確認し右手を上げていた。


「右に……」

「で突き当たるからそれを左へ」


 すずが納得するのを待ってからさらに続けた。


「途中右へと行ける道がある、それを右に。さらにまっすぐ進むと道は三つに分かれる、一番左の道を行く。するとまた二股となる、それを左、して真っすぐ行けば間もなく常世の明かりがこぼれる場所に鬼切は有る」


 複雑な表情なのは道順を整理している為だろう。曲がる方向の手を挙げ確認をしていた。


「先ず右、で左、途中で右、真っすぐ言って三つあるのさ左、で右」

「そうだ、なんども繰り返すと良い」


 言われた通り頭に叩き込んでいるようである。


「覚えたか?」

「大丈夫だで」


「そうか、ではこちらに戻る順序を」

「だ? ……、……わかんね……」


 当然帰る順路も覚えねばならない。すずは目を白黒させれば順路を逆にするべく首を傾げ考え込んでいた。

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