謎の二人
忍びを始末する隊は仙吉の指示通り、痺れ毒の矢を入れた竹筒を腰帯に差し込んだ。二人一組となり忍びの視線を一人が引き受ければ、もう一人が吹き矢で仕留める手筈である。
同じころ、形代を始末する隊は仁平が指示のもと手頃な小石を手に、人や動物などに化けた形代を探し歩いた。見つければ背に回り町人に注意を払いながら飛礫で始末して歩くのだ。そこに落ちた形代は時貞が解呪して歩くのである。
「道忠様、どうだろうか?」
「殆どの者が心を閉ざし目的を読ませませんでしたが、一人がやっと漏らしましたよ。しかし忍びって凄いですね改めて驚きました」
「同じ忍びと言っても実力は天と地ほどに差がある、この忍び共はかなりの使い手に違いない。で、この者共の目的は?」
余程に鍛錬を積み苦難を乗り越えてきたのだろう、それは立ち姿でも判るがこうして痺れて倒れている姿にも表れる。並みの忍びであれば無理にでも解こうと、身体に負担をかけるが、場数を踏んだ者であれば毒の種類を見分け冷静に対処法を考えるのだ。
「この者共、呪師の放った忍びには非ず」
「なに? では、誰が?」
「そこまでは分かりませんでしたが、ただ一言言えるのは呪師の敵となる存在にございます」
「益々解らなくなってきたな……何が起きているのだ……」
「俺はこの件も含め小平太様に報告を」
三助が走ると同時に、仙吉は背後に只ならぬ気配を感じた。瞬時に身体を捻り道忠を守りつつ数歩退くと、そこには先ほど風変りな気配を発していた老人と若者が居たのである。
「おいおい、爺さんと若いの、あんたら一体何者だ?」
「これは驚いたな。一言も聞いてなかったが、驚くべき勘と身体能力だ。忍びである事を此処まで隠し通して来たという訳か」
「なるほどな、忍びはあんたらの配下だったか。一応聞いてみるが、何故我らを監視していた?」
二人は警戒する様子も何か隠し事をする様子でも無く、至って平然としていた。
「知っての通り鬼が出た故、鬼退治に必要とされる人物を探し信濃へ向かったのだが、何故か神道者達も同じ人物を探し始めたと聞いたものだから気になってな。先ずは我らが名乗り出る前に、何事か様子を見ていたところだ」
「神道者の何が気になったのだ?」
鬼を止めたいのだから神道者が術者を探してもなんら不思議ではない筈だが、この老人はそれが気になると言う。仙吉がその理由を問うのは当然と言えよう。
「神道者が自然の術と鬼との関係をある程度、知っているとしてもだ」
「どうした」
「鬼の倒し方を知らなければ何の意味も無い。神道者が鬼の倒し方など知りようも無いからな」
この老人の疑問が仙吉にはまるで理解が出来ない。こっちは既に鬼の処し方を知っているし、間もなくそれが実行されるのだ。
「神道者が、倒し方を知っていたとしたら?」
「知っている筈が無い、万が一知っていたとしても、鬼切が手に入らなければどうにもならぬ事」
鬼切とは自然の術となる筈である、しかし老人は鬼切が手に入らなければどうにもならぬと言ったのだ。大禅の情報との食い違いが更に増したのである。仙吉は更に慎重となった。
「そもそも、鬼切とはなんだ?」
「鬼を切る為のもの……ん? 道雪の鬼退治の話を知らぬのか?」
「少しは聞いた事がある」
「そうか」
どちらに偽りがあるのか仙吉には計りかねる。ならば道忠を頼るのが賢明であろう。
「ところであんたら一体何者だ?」
「あぁ、そうであった何者かと問われておったな。申し遅れた、儂らは現世の番人。代々にして、この様な事態に備え常に監視の目を張っておる一族だ。常世の戸に結界を張り、たった今此処に来た」
「現世の番人? なんだそれは?」
現世と常世については話を聞いたから多少の知識はある。名乗る意味をそのままに受け取れば、この世の番人。つまりはこの世を守る為の守り人という意味となる。
仙吉がそれらの情報を整理し始めれば少しして、緊迫した気が弾けたのである。
「おいっ!」
「ん?」
「……あの娘……あそこで一体何をしている……」
「ん? ……ま、まさかあれは……写し身かっ!」
「おいおい、何で写し身の術を知ってんだよ……」
「これはいかん! 止めろ! 今すぐ止めさせろ!」
若い男の疑問と、老人の怒気に鬼の方を見れば、すずが月の光を集め出したところである。
「何か問題でもあるのか?」
「大ありだ! 喰われるぞっ!」
「喰われるだと⁉ 一体どういう事だ!」
「良いから今すぐ止めろっ! 手遅れになる急げ! くっ! 接触しなかったのは失策であったか!」
番人の反応は鬼気迫るものであった。しかも喰われると言うのだから、黙って眺めている場合では無い。只事では無くなった状況に仙吉は疾走した。




