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狂暴なる鬼

 日の出の一時程前、大きな音と共に一軒の家が破壊された。只事ではない音に周囲に住まう町人達は飛び起き、表へと飛び出した。


 その家は材木運びで暮らしを立てている一助の住まいで、中には両親と妻それに二人の幼き子が住んで居るのだが、その安否は知れたものではない。屋根は粉々に吹き飛び、壁と柱の殆どが破壊されているのだ。


 一体何が起きたのかと、町人達は固唾を飲んで見守った。


「おいっ! 無事か! 何があった!」


 返事の代りに何か丸いものが飛んできて転がったものだから、皆の視線は集中した。それはこの家の幼き男の子の頭部であったのだ。


「あ?」

「……っておい! これ小太郎の頭じゃねえか!」

「おいおい……何事だよ……」


 もう一度家の方に視線を戻すも何も見えないのだが、再び何かが飛んできたのである。足元に落ちたそれを見れば幼き腕であった。


「何処から飛んで来るってんだよ!」

「おい! 上! 上だ!」


 地面より十尺ほどの高さに、あろう事か子供の胴体が宙に浮いていたのである。血が大量にこぼれ落ちれば、間もなくして胴体の一部が欠けたのであった。


「どうなってんだあれは……」


 それは、どう見ても何かに喰われたとしか言いようのない状況であった。


***


 同刻、宿所の戸を激しく叩く神道者の姿があった。


「開けろ! 鬼だ! 鬼と成ったぞぉ!!」


 一斉に起き上がれば、小平太はすずを揺り起こしていた。


「……おら、もう食えねえだよ……腹いっぱいだで、ぷくく……だ、でも鯖は食うだ……おっかねえ程旨かったんだ」

「寝ぼけて居る場合では無い、起きろ、鬼が出たぞ」


「……おに……、……それも旨いだか……?」

「おいおい、食い物の話ではない。鬼だ、常世の鬼の話だ」


 次の瞬間、素っ頓狂な表情で飛び起きれば周囲を見回した。


「……、……鬼っ! 出ただか!」

「流石に此処には居らぬぞ」


 小平太とすずのやりとりに、皆は笑いつつも瞬く間に身支度を整えれば、一斉に飛び出し走った。場所は既に報告を受けていたから迷う事も無い。馬上のすずが忍びに狙われる事を想定し、皆は周囲を警戒しつつ走ったのである。


 現場には既に多くの町人が集まり訳の分からぬ恐怖に困惑していた。後方より町人を掻き分け進み行けば、間もなく不思議な気配のある老人と若者の視線があった。それはすずを含め皆が察知したのだが、今はそれどころではない。


 間もなく役人が町人を抑える元まで来れば、凄惨な現場を目にしたところである。


「だっ! と、とんでもねえ……あっという間にあんなでかく……なっただか」

「おいおい……本当にでかいな……」


 鬼は道雪の書き残した書の通りの姿であった。


「役人殿、町人を更に……いや、出来る限り遠ざけたほうが良いぞ」

「はっ!」


 赤黒かった小鬼は僅か一晩で青黒く変色しており、身の丈は十尺を軽く超えていた。


 形相は激しく牙を剥きだし、隆々とした二本の角が額より突き出している。一歩踏み出せばその振動に町人達はざわつき、悲鳴を上げる者もいた。振動の正体が見えないのだから何が起きたのだと不安になるに違いない。


「随分と派手に壊し、随分と喰ったようだ、可愛そうに子も居たか」


 周囲には十体分ほどの遺体の一部が散乱しており、地面にはかなりの血が浸みこんだのだろう、黒く変色して現場の凄惨さを物語った。


「ところで皆、先ほどの二人どう見た」


 小平太の問いに皆が頷き同様なる意見を述べていた。


「唯者ではないな」

「忍びではなさそうだが、妙な気配だ」


 町人に紛れて現場の様子を見ていた男が二人居たのだが、すれ違いざまに唯者では無い事を感じ取っていたのである。


「もしや、あれらが呪師か?」

「いいえ、私も気になり少し気を読んだのですが、鬼からの被害を心配する様子が見受けられました。呪師ではございませんでしょう」


 気にはなるも呪師で無いのなら問題はない。偶々霊力の高い二人が現場に居合わせただけに違いないからだ。


「さてと、では皆計画通りに頼む」

「承知」


 すずの身は小平太が守り、山人がすずを狙う忍びの監視と排除を行う。素性が知れる事となるが此処まで来れば充分である。


 道忠と時貞は他の守り人達と共にその場を離れ、静かに忍びと形代の排除に務めるのである。


 皆が散り、ある程度片付いた頃を見計らいすずの出番となるのだ。すずは緊張した面持ちで大きな月を見ていた。


「いよいよだでな……」

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