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鬼待ち

 それは全体に赤黒くあり赤鬼を思わせた。ならば昔から伝わる鬼伝説の一部は実物の鬼を記した可能性が高い。


 挿絵などに描かれる事も多い鬼の形相とは少し違うも全くの見当違いという訳でもない。一目で鬼と認識が出来たのである。


 頭部が異様に大きく、それに見合わない異常としか言いようのない華奢な身体は筋張るも、手足の指先の爪は異様に鋭くあった。


グシュゥゥ……グシュゥゥ……


「だ、だ、大丈夫だか……?」

「うむ、我々の存在に気付いていないようだ」


 微かな気配を感じ探して居るのだろう、周囲を見回し不気味な唸り声をあげているが、一行の姿は認識できないようだ。間もなく興味を無くせば、次なる獲物を吟味していた。


 小鬼は周囲を眺めていたが、少しして一人の人間に狙いを定めれば、跳ねるように近づきその者の背に跳び乗った。どうやら若く力強そうな男が狙いのようだ。


「可哀そうだが仕方も無い」

「うわぁ……身体に浸みこんでくだで……皆にはほんとに見えねえんだな……」


 背中に憑いた小鬼の手足は男の身体へと沈み込んでゆき、背と頭だけが露出している。一行には霊力があるから見えるのだが、一般人には何も見えない。


 故に、周囲の者は誰も気づかないのだが、本人は流石に違和感を覚えたようだ、首を傾げつつ胸を軽く叩けば、再び木材を担ぎ上げ仕事へと戻った。


「鬼となるのは何時の事やら、さて戻るとするか」

「んだな、腹も減っただで……ところで何が食えんだかな? 何せ京の食い物だで想像もつかねえだでな」


 すずの楽しみは食事にあった様だ、きらきらと輝く瞳を見れば間違い無い。皆を急かし歩く小さな背中は一見の価値を有しよう。


 宿所には数人の神道者が居た。聞けば小鬼の監視の交代要員だと言う、四六時中見張り誰にとり憑いたのか報告するらしい。


「鏡の皆様は、何か禁食されている品などございませんか?」


 神道者の中には自ら禁じ守る者も多いと聞く、しかし鏡にはそれらの定めや縛りがなかった、無論守り人も同じである。一切ないと伝えれば係りの者は奥へと消えて行った。


 半時ほどして大広間に案内されれば、一行は並んで座し料理が運ばれるのを静かに待ったが、すずは一人落ち着かない様子で、戸口を気にしていた。


「良い匂いがして来ただで……何が食えんだでか」

「楽しみだな」


 間もなくして戸が開けば、膳が運ばれ皆の前へと置かれていったのである。豪華な料理を前にすずの喉が鳴った。


「米さ真っ白だでな……ところで、これはなんだ?」

「白身の魚をすり潰し、蒸してから焼いた蒲鉾にございます」


「……魚さそのまま食わねえだか……、……さすが京だで……」


 他にも蛤の潮汁に、中々大きな海老と根菜の煮物、魚の切り身を焼いたものに漬もの等が並んだ。


 予告なくこれ程の人数が押し寄せたのだから用意する方は目を白黒させたに違いないが、立派なもてなしである。すずは目の前に並んだそれらを眺めたまま動けずに居た。


「では皆、遠慮なく頂くとしよう」

「頂きますだっ!」


 魚は鯖と言い、海老も北海で獲れたものらしい。京へは多くの海の幸が運ばれるらしく、川で獲れる魚貝とは一味違うと言う。


「だ! なんだでこの魚……、……」

「鯖と言ってたぞ」


「海の魚さ侮れねえだな……」


 一箸つける度に頷き、真剣な眼差しで御膳に並んだそれらを食い入るように眺めた。塩加減や火の入れ具合など確かめているようだ。


 この日より、朝晩は此処で御馳走になり、昼は握り飯と漬物を用意して貰う事となり、すずは大喜びであった。

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