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現実の景色

 その後、別邸が使われる事は無くなった。一時は取り壊そうと、地元の大工たちに頼んだものの、全員が全員断りを入れて来たようだ。


 話を聞けば「指一本触れてはならぬ」と恐ろし気な声が聞こえるのだと、逃げ帰ってしまうらしい。


 当の寺田の家に者には何も聞こえないし、不審な事も何一つない。ただ、そこで起きた事件の忌々しさと、深い悲しみと怒りを胸に死ぬ事となった幸の気持ちを考えれば、気が滅入るばかりとなる。故にこの別邸に出入りする者は居なくなった。


「で、少しして変死体が出始めたと」

「いかにも」


 遺体の発見現場が屋敷の近くであったところに大工たちの噂が加わったものだから、地元の者でこの森へと入る者は少なかった。しかし行商人などはそのような事情を知らない。


「それで水売りとなり監視を?」

「小道を行かずともどこからでも入れるので、大した役にはたたぬとは思いましたが、少しでも犠牲を減らそうと」


「なるほどな、で、監視がてら祠に花を供え続けたのか……実のところ、幸殿に会いに来ていたのではないか?」


 その役目は寺田氏からの願いでもあった。この変死体が幸と関係があるのならば、どうにかして止めて欲しいと悲願されたようだ。


 忠興の人生を狂わす事に寺田は深く謝罪をし、この先暮らすに必要十分となる金子を渡せば寺田の家はひと月を待たずして絶えた。


「おっしゃる通りにございます、もしかすれば会えるのではと……」

「幸殿も同じ気持ちであったからこそ、屋敷の取り壊しを拒んだのかも知れぬな」


 間もなく鳥が忙しなく鳴き始めれば闇は去り朝を迎え始めた。


「さて、寝坊助どもを起こしに行くか」

「現実を見て、さぞや驚くだろうな」


 開け放たれた室内を見れば大禅は倒れた時のままうつ伏せに、すずは大の字になって、気持ちよさそうに寝ていた。恐らく楽しい夢でも見ているのだろう。


「おすず朝だぞ」

「……、……ぷくくく……黒丸(ねこ)が皆と手さ繋いで踊ってるだでな、おらも混ざるだ」


「それは夢だ、ほれ起きろ」

「……、……だ? あれ? ……あさ……?」


 むっくりと起き上がれば眠気眼で周囲を確かめていた。どうやら記憶に問題がある様だ。


「あれ? なんだで此処は……?」

「屋敷の離れだ」


「屋敷……、……あれ……?」


 きれいに手入れされていた筈の離れは蜘蛛の巣が酷く、磨きあがった床も酷い有様であった。すずは驚き外に飛び出せば、廃墟となっている屋敷と、手入れがされていない庭の姿に呆然としていた。


「だ……なんだでこれ……」

「これが現実だ」


「そっか……皆、見えてただな……」

「護符があったからな」


「偉い感心しているからおかしいと思っただで……怨霊の力にたまげてただか……」

「しかし、祠だけは綺麗なままだぞ」

「なんでだ?」


 解り易く説明をすれば悲しい表情を見せていた。怨霊よりも何よりも、本当に怖いのは人の卑しい心だと知れば、すずはまた一つ大きく成長したに違いない。


「では、朝餉を食って京へ行こう」

「いよいよ、京だでな……したら、用意するだで」


 一行は伸びをしつつ、すずを手伝えば、間もなくして大禅が額を擦りながら起きて来た。昨夜倒れた時に思い切り打ち抜いたようだ。




♢♢♢


此処までお読み頂きまして、誠に有難うございます。


次回より、鏡の一行はいよいよ京へと入る事となります。さてさて、小鬼とは一体どのような存在なのか、鬼と化した時、どれほどの脅威となるのか。その全てが明らかとなります。おっと……守り人を監視する忍びの正体も明らかに。


「鬼退治さ、さっさと終わらせて、京の旨い物さたくさん食って帰るだでな。ぷくくく、楽しみだで」

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