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違和感

 船のおかげで時を稼いだから、予定よりもかなり先を進んでいた。京へ通じる道を順調に進めば、間もなくして大禅以外の全員が只ならぬ違和感を覚え、右手に広がる森を見ていた。


「あっちの森さ変な感じがするだで……」

「そうだな」


 薄っすらとだが、禍々しく不快な空気が漂ってきているのだ。すずは腕を交わし自分の両腕を掴むと身震いをしていた。


「これは相当だな」

「何かございましたか?」


 皆の反応に大禅が問えば一行は脚を止めた。


「恐らく悪霊の類だろう、只事ではなさそうだ」

「只事でねえって……今までより酷いって事だでな……」


「大禅よ、あの森について何か知っている事はないか?」

「さて、このあたりに関しては縁が無く……」


 そこを通る人々に気付く者は居ない、仙吉が走り一町ほど先で商いをしていた水売りに声を掛ければ、森について尋ね聞いているようであった。


 少しして戻れば、その表情は何か情報を得たものである。


「森奥の廃墟の付近では、頻繁に奇妙な遺体が発見されるらしく、つい二十日前にも犠牲者が出たと。故に森へ行くなら気を付けるように忠告を」

「奇妙な遺体とな?」


「発見される遺体は何れも死後間もないが、必ず干乾びた状態で発見されるようです」

「干乾びているか……これは中々にして厄介な相手かも知れんな」


「なんで干乾びてんだ?」

「力を失わぬ様、人の養分を吸い取る悪霊が居ると、鏡の年史で読んだことがある」


「だっ! とんでもねえ……まただ……あれ……、……まさかだでな……そんなとこさ行くなんて言わねえだな……」

「人が頻繁に殺されているのなら、止めなければなるまい」


「……嫌な予感しかしねえ……」


 再び歩き始め水売りの前まで行けば、丁度その先に森へと続く小道があった。


「忠告を聞いても尚、行くおつもりか?」

「うむ、犠牲を止めねばなるまい」


 道忠と時貞を見れば水売りは一層眉をしかめた。


「そう言って帰って来なかった者を大勢見ている」

「大勢の中の一人にならぬ様、注意しよう」


 一行は水売りを通り過ぎ森へと入って行けば、警戒し周囲へと目を配った。見た目には何処にでもある森と変わらないのだが、霊感が只ならぬ異常を訴えていた。


「佇まいからして武人だな、隠しようもない」

「武人が水売り、森の監視役ってところか」


 一方ですずは馬上であたふたと忙しそうである。


「寄り道なんかしてたら、鬼の被害で困る人居んでねえかな……いや、絶体に居るだで」

「船で時を稼いだから問題ない。しかも陽が傾いておる、何処ぞで一夜を過ごさねばなるまい」


「だぁぁぁ! とんでもねえ!」

「何事も経験だ」


 そう言うと小平太は笑顔を見せた。


 無論、禍々しく不愉快な空気は進む程に濃くなり、四半時も歩けば吐き気を覚えるほどに酷くなった。


「これは酷いな」

「……、……だから言っただ……おら、吐き気と寒気が止まらねえ……」


 皆が只ならぬ異変を感じている中、大禅は表情こそ渋いも、ただ一人余所吹く風である。すずはその様子に眉をしかめていた。


「悪霊さ憑かれたことあるって聞いただが、あれじゃ仕方ねえだな……こんなに酷いのにまるで気が付かねえで……」


 少しして、小平太が手を挙げ一行がその場に止まれば、何処からともなく美しくも悲しい笛の音が耳に入った。


「間もなくのようだぞ」

「この笛さ……一体なんだ……、……」


 不思議と森が奏でる爽音も鳥たちの声も届かない、ただそこには得も言えぬ澱んだ空気が重く圧し掛かっていた。が、間もなくそれさえも晴れて行けば、守り人達の研ぎ澄まされている筈の感覚が靄に包まれ始めていったのである。


「皆、心して参るぞ、既に悪霊の術中に嵌っている可能性がある」

「承知」


「だっ!」

「問題ない、儂らが居る」


 時貞がそう言えば、道忠も頷き笑顔を見せた。

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