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捕縛

「したら、皆腹減ってそうだで、夕餉の支度するだか」

「しばらく何も口にしていないようだ、柔らかく炊き卵粥を作ってやると良い」

「んだな」


 持ってきた卵は残りが僅かであったのだが、これ程に消耗していれば必要となる。すずと小平太のやり取りに、娘も男たちも目を潤ませていた。


 間も無くして食事の用意整うも、娘が箸をつけるまでは誰一人椀を手にする物は居ない。遠慮してるのではないかとすずが心配すれば、娘は深々とお辞儀をして箸を手に取ったのである。


 震える手で一口食せば男たちもそれぞれに椀を手に取り口を付けたのであった。食した娘は無言のままで俯き、椀を静かに置くと間もなく肩を震わせていたのであった。


「あ、あれ……もしかして……旨くねえだか?」


 顔を上げた娘は瞳いっぱいに涙を溜めているばかりか、膝は既に大粒の涙で濡れていた。


「おいしゅうございます……こんなにも美味しく、温かな食事を……本当に……本当に……うっ、うぅ……有難うございます……」

「だ! どうすんだ……泣いちまった……」


 家臣と思わしき男たちも堪らず涙を流していた、言うに言えない事情と察するも、中々にして苦難の連続であったに違いない。


 その後、静かに時を過ごしていれば、やがて社の周囲にちらほらと人の気配を感じていた。間違いなくこの四人の追手であろう。


「建物の周囲を囲むように五人、それ以外は少し離れ待機しているようだ、佐助何気なく様子を見て来てくれ」

「承知」


 四人には緊張が走り構えたが、時貞がその肩を優しく叩けば、其々から緊張は消えていった、間もなく探りに行った佐助が戻れば敵の人数と配置、それに武器などの情報が細かく齎されたのである。


「七名か、幾手かに分かれ捜索を始めたようだ」

「その様に、それと例の忍びは今も監視中にございます」


「では面倒でも従う振りをして捕まえるとするか。皆、手際悪くだ」

「承知」


「曽我の方々、何があってもご安心を」

「は、はい」


 仙吉が警戒した様子で戸を開け外を伺うも、追手の存在には一切気付かない振りをしていた。


「追手が居ると言うが誰も居ないぞ、気にし過ぎではないのか?」

「もう少し先まで行って確かめろ」

「何だよ、居ねえって言ってんのによ……」


 戸を閉め歩き始めれば、身を潜めて居る追手の息遣いを感じていた。仙吉が如何なる人物か見定めているに間違いない。


 丸腰である事からも厄介な者ではないと判れば相手も油断をする。暗闇より男共が現れれば仙吉は大層驚いて見せた。


「うわっ!」

「しっ……黙れ」


「おーい! 何かあったか?」

「い、いや何でもない……狸が横切っただけだ」


「狸に悲鳴って! わははっ! 梟にも注意した方が良いぞ!」

「……、……」


 仙吉は抜き身に顔を顰めつつ黙っていた。その様子からも忍びも追手たちも不信感を抱く事は無い、至って普通の反応なのだ。


「その中に娘と男たちが三人居ろう」

「さ、さて」

「とぼけても無駄だ。ところで、お前たちは何者だ?」

「社の者で……旅途中に……」


 ならば武器も無ければ、腕に覚えもあろうはずがない。男は刀を治めると仙吉の襟首を掴み、社の戸を勢いよく開け放った。


「うわぁ! な、な、なんだ!」

「お前たちに用はない、退けぃ」


 驚き外へ逃げ出す振りをしつつ、七人の姿を捉えれば間もなく、小平太の合図と共に一斉に飛び掛かったのであった。


 無論、手際悪く慌てて見せるも的確である。刀を抜かせる事も無く混戦となれば必死な振りをしつつ、男たちを取り押さえ縄に縛り上げたのであった。


「くそ! お前らこんなことしてただで済むと思うなよ!」

「そうは言っても縛られてたら何も出来ないのではないか?」


「すぐに仲間が来る手筈だ! 今なら許してやる! 縄を解けぃ!」

「嘘が下手だな、そんな手筈など無いし、許す訳もない」

「くそっ!」


 三助たちが見張りの振りをして戸外に出れば、忍びも近づく事は出来ない。静かに戸を締めれば、七人全員を気絶させた。丸一日は目覚める事は無い。


「かたじけない。しかしこれで、あなた方まで追われる可能性が……」

「心配無用、しつこい蠅は叩き落すだけの事」

「なんと……」


 そうは言っても迷惑を掛けた上に、事情も話さないという訳にはいくまい、娘はその場に座り直した。


「今に至る経緯をご説明させて頂きます」

「無理しなくて良いのだぞ」

「いいえ」


 娘は曽我大社の姫君であった。この地域を治める門脇氏は、今は武家となった曽我大社と縁が深いと言う。故に年若き姫は数人の家来と侍女を伴い門脇氏の元へ、側室として行く事となったのだが、問題がその先にあった。


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