問われる者
前方の賑やかな声を聞きつつ歩けば、忍びの二人は藪へと隠れたが、その位置まで仙吉と仙太が戻った為、忍びは藪の中で身動きが出来ず足止めとなった。
忍びの目が届かないところまで来れば、仁平は男どもを呼び止めたのである。
「なんだ? 俺らになんか用か?」
「お前達に聞きたい事があってな」
「あ? お前達だ? おめえ武人でもねえくせに、随分偉そうだな?」
「おい待て。さっきの神職の従者だ」
「けっ!」
仁平は腕を組むと左の手で以て顎をつまめば深刻に悩んでいる風な表情を見せていた。
「俺の故郷が何処なのか聞きたくてな」
「あ?」
仁平の問いかけに五人全員が戸惑い顔を見合わせては、再び仁平の表情を読んでいた。
故郷が何処なのか赤の他人に聞いてわかる訳もない。男たちからすれば、わざわざ追いかけてきて、そのような訳の分からぬ質問をするのだから何事かと不信を抱くのは当然である。
「馬鹿かおめえ、俺たちに聞いて解る訳ねえだろうが!」
「おいおい、まて。話を聞こうじゃあねえか」
「けっ! 面倒くせえな」
「小山が点在する地でな」
「なっ、おめえ……、……そんなもん、そこら中に似た景色があるじゃねえか!」
男たちは明らかに苛立ちを見せていたが、仁平はまるで気にする事も無く問い続けた。
「では、七郷峠はどうだ? おとうが猟師でな、よく話をしていたから覚えている」
「七郷峠? ……、……七郷……そこならどっかで聞いた事があるぞ……」
「あぁ、確かに聞いた事があるな……何処だっけな……北ではないな……常陸か……」
聞き覚えのある土地が出てくれば苛立ちも消え皆が考え込み始めていた。
「あ! 武蔵かもしれねえ、鎌倉の上道に道標があったの覚えてるぞ」
「あぁ、そうだ、そこだ間違いねえ、お前かしこいな」
「がはは、今頃気付いたのかよ間抜け共が」
「そうか、武蔵国であったか、随分歩いた気がしていたが案外近かったな」
幼かった上に殴る蹴るの暴行を受けていた為に、時が長く感じていたのだろう、十日ほどは人さらい共と一緒に居た記憶であったが、恐らくは四日か五日の出来事であったようだ。
「あぁ、その付近には七つの郷があると聞いた事があるぞ。きっとそこだ」
「その何処かか……そうだ、細長い池が村にあったな、今思えば通りも往来が結構あった」
「ならば柿岡村に違いねえ、上道が村の外れを通っている村だな」
「そうか武蔵国の柿岡村か、なるほど街道沿いだったから悪党と出くわしたって事か」
「あ?」
「ところで荷車など引いて何処へ向かう?」
「あ? そんな事聞いてどうする、なにか文句でもあんのか?」
「おい。つっかかるな」
「ん? 言いたい事があるのなら構わぬぞ、今のうちに何でも申せ」
「あ?」
「おい!」
あまりにも堂々としている仁平の態度に唯者ではないと、気づき始めた者も居る様だ。
「行商の帰りだが、近江で仕事を終えたものだから、すぐそこの村まで帰る途中で」
「なるほど、村は目の前だし金子もたんまり入ったものだから賑やかだったのだな?」
「え……あ……まぁ、そんなところだが……」
何者なのか得体の知れない仁平の存在に、男たちは早く立ち去ってくれと言わんばかりの表情である。
「もう一つ尋ねるが、お前達の村とはあそこに見える小山の麓の村か?」
「あぁ、まぁその通りで」
「そうか、ところで運命を感じた事はあるか?」
「あ? ……まぁ、ある様なねえ様な……」
あからさまに迷惑だと言わんばかりの表情である。
「そうか、ならもう一つ聞くが、今回は何人の子供を売って来たのだ?」
「あ?」
「何?」
「ま、まさかそのような事……あっしらはその、む、村で拵えた籠なんかを売りに……」
「恐ろしく嘘が下手だな、顔に出ておるぞ」
「いやいや……本当の事で……」
「そうか、ならば判り易くしてやろう、お前、名を泰三と申したな、背に深い刀傷がある」
男たちの表情は一変し、本気で驚いたものとなれば、警戒し後退った。
「お前は五平、首の骨を鳴らす癖がある。でお前が岩男だ糞が近い。で、そこのお前が定吉だ蜘蛛嫌いだったな。で最後のお前、伊作だな前歯が無いくせに気味の悪い笑顔が得意だ」
伊作はとっさに口元を手で隠していた。




