狙われた家族
男たちは広場まで戻ると、長老を含めて話し合いをしていた。
「どうする、二人だけでも、今夜やっちまうか?」
「いいや、伊佐治がいつ帰ってくっかわかんねぇ、見つかっては大事だ」
「そうだな、伊佐治が戻った夜中に寝込みを襲ったほうがええ」
「ならそういう事で」
男たちの不気味なやり取りを知る由もない伊佐治の家族は、いつもと変わらぬ時を過ごしていたのは仕方も無い。
翌日の早朝には伊佐治も戻り、早速豪華な食事となった。久々の馳走に自然と涙が零れ落ち、互いに慰め合っての食事である。
「仙蔵ところさ、幼子も居るし、ちと持って行ってやっか」
「そうだねぇ、喜ぶよ」
隣と言え仙蔵の家までは山を一町ほど下った先であった、戸を開ければ仙蔵は家族皆と空腹を耐えきる為に横になり動かずにいた。
「よお、山に行ってきたからよ、少ねえかもしれねえが足しにしてくれ」
「……、……す、すまねぇ……」
「いつまでも日照りが続く訳もねえ、もう少しだ、耐えるしかねえよ」
「あぁ……そうだな……」
「これ食って元気出たら一緒に山さいかねえか? でけえ猪が居んだよ」
「そうか……そん時は手伝うよ」
「あぁ、頼むよ、村の皆も食えるくれえ獲らねえとな」
「……そっか……、……伊佐治よ……おめえ……、……」
「あ?」
「……、……い、いや、なんでもねえ……」
元気が無いのは仕方も無いそれ程に空腹なのだ。しかしこの時の仙蔵は明らかに余所余所しいとしか言いようのない雰囲気を醸し出していたのであった。
笹へと状況を伝えれば、笹もまた伊佐治が留守中に訪ねてきた男衆の事を思い出したところである。
「なんだ、喜平達が家に?」
「あんたに、用があったみてえだけど」
「そっか、後で行ってみるよ」
広場へ行けばそこには長老をはじめ喜平達も雨乞いを行っていた、皆が一斉に伊佐治を見るもすぐさま石像に向かい手を合わせていたのである。
「昨日、来てもらったみてえで悪かったな、山に行ってたんだ」
「そうか……良いんだ、大した用じゃねえ、一緒に祈祷をしねえか誘いに行っただけだ」
「そっか、じゃぁ俺も祈祷させてもらうかよ。あぁ、そうだ明日もう一度山さ行くが村の人間何人か連れて行きてえ。でけえ猪仕留めんだよ、あの家族仕留めれば村の皆も腹いっぱい食えるからよ、ついでに鹿も獲れればいう事ねえ」
「そっか、家族仕留めれば皆、食えるか、そうだな全力で仕留めっか、くくく」
「あ?」
喜平の薄気味悪い笑いに伊佐治は寒気を覚えていた。
その夜、寝苦しく生温かい夜風だが心地良かった、伊佐治と家族は久々に腹を満たしこの世の幸福を味わったところである。
「明日は頑張らねえとな」
「深追いして怪我しねえでな」
「あぁ、足元も元気が出たから問題ねえ」
皆で笑い楽しい明日を想像していた。食べ物があり、村の皆にも喜んでもらうのである。伊佐治は猟場の途中に食せる山草と沢蟹が豊富な沢を見つけたものだから、そこには笹と菊、それに村の衆も数人連れて行き食料を確保する予定であったのだ。
「さぁて、明日に備えて寝るか」
「そうだねぇ」
しばらくの後、伊佐治たちが寝静まるのを待って、十人の男たちが忍び寄ると、縄を手に家の中の様子を伺っていた。
戸は開け放してあるから、伊佐治のいびきを聞けば男たちは迷うことなく家の中へと踏み入ったのである。
瞬く間に手足を縛られ自由を奪われれば、何事かと目を見開いたところであった。
「なんだお前ら!」
笹と菊は口を開く事も無く目を見開いていた。
「腕っぷしの強え伊佐治も、縛られちゃあどうにもなんねえな」
「喜平! おめえいったい何のつもりだ! 後で足腰立たねえほど殴り倒すぞ!」
「あぁ? やれるものならやってみなよ」
「あぁ? なんだと!」
「連れてけ」
途中で何度も暴れるが手足を縛られた上にこの人数である。すぐさま殴り返され、半ば引きずられるように広場へと向かえば、そこには大勢の村の者達が集っていた。
「おい! 一体なんだ! 夜中に皆で集まって何をしてる!」
「あぁ、石神様に祈りを捧げてるとこだ、ありがてえってな」
子供の姿は無いが、男女を問わず村の人々が松明を焚いたそこに集まり、祀ってある石像に向かって祈りを捧げていた。
「ありがてえだ?」
「あぁ、新鮮な食い物にありつけんだ、そりゃあ、ありがてえ事だ」
「あぁ? 食い物なんてどこにある!」




