間話
「お前らさぁ、異常だよ。」
兄さんの友人だという人から、言われた。
「いつまで兄妹仲良くしてんだよ。手をつないで隣にピッタリ張り付いて。お前には、常識がねぇの?周りにどう思われるかとか、考えねぇの?」
高い身長で、私に威圧感を感じさせるように私の顔をのぞきこむ。
「俺は友人に、真っ当な道を歩んで欲しいんだよ。わかるだろ?あいつの妹ならさ?」
私は、男の瞳を静かに真っ直ぐ見る。軽蔑と侮蔑を込めて。
「真っ当な道って何?」
その視線の強さと明らかに見下す言い方に、少し怯んだ男は、怯んだ事を恥じるように音量を上げた。
「大学生の兄と高校生の妹が、いつまで手をつないでいるんだよ。距離が近すぎだろ?」
私は、静かに聞いていた。セーラー服のスカートの折り目を数える。延々とおかしいと異常と離れろしか言わない男の話は、人気のない孤児院の中庭に消えていく。
自分の正当性を言いたいだけの話は、同じ内容を繰り返す。…私たちを引き取れないと叔母だか祖父だかが延々と理由と自分の正しさを語っていた。
さえぎると、余計面倒になる。聞いて納得してもらいたいだけなのだから。聞いているように見せかけて聞かないのは得意だったはずなのに。
この男の話は耳障りだ。
「…異常。」
ぽつりとつぶやく。男の声が途切れる。
「異常で何が悪いの?私は、欲しいものに手を伸ばしただけ。常識なんか関係ない。欲しいものをあきらめて生きていきたくない。あんたがどう思おうが、世間がどう思おうが、私の選択にあんたは関係ない。私は、私の意志に従う。」
欲しいものに手を伸ばして何が悪い。欲しいものから目を背けて、欲しくないものをもらってあきらめるなんて私にはできないし、したくない。
私は、強欲で傲慢。欲しいものを抱きしめて離さない。それが、異常でもどうでもいい。
たった一人さえ、いればいい。
他には何も望みはしない。
もう、この男の話を聞く必要はない。室内に戻ろうとするが、男が私の腕をつかむ。
「っ待てよ!」
痛みに顔をしかめる。それと鳥肌。気持ち悪い。兄さん以外の男になど触れられたくない。振り払おうと腕に力を込めた。
「離して。」
兄さんの声。腕をつかむ手の力がゆるんで私は、兄さんの元に走る。ぶつかるように兄さんの胸に飛び込む。たいした距離を走った訳でもないのに、息が上がって、兄さんのシャツをつかむ。かすかに震える手。大きな手が怖くてたまらなかった。…父を思い出させる手。兄さんの腕が私の背中に回り包んでくれる。
兄さんだけ。兄さんしかいらない。
兄さんの胸に顔をうずめて、兄さんの心音を聴きながら、側にいたいと思った。
誰に否定されても、兄さんが許してくれる限り。




