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バクは私の話を聞いて少し黙り、またしゃべり出す。
「じゃあ、にゃん姉ちゃんは?あのにゃん姉ちゃんすごくいい子でな。毎日ワテにおいしい甘納豆を持ってきてくれてたんや〜!天気のいい日にはワテの布団を天日に干してくれてな〜。」
なんだかうっとりした顔で回想してしているが、食べ物と布団の事かよ。…甘納豆が好物なのか。バク。いや、いいけど。
「猫獣人の身体能力を知っている?」
バクは首をかしげる。…くっ、かわいい。
「にゃん姉ちゃんの?いや、知らんな〜?ワテは食っちゃ寝を繰り返す有意義な生活してたからな〜?」
…有意義?食っちゃ寝?…どこにツッコミを入れていいのかわからん。
「猫の身体能力は、侮れない。猫はハンターでもあるし、夜目もきく。…逃げ切るには距離をとらなければ。」
傷を負い走るにも限界があった。川の流れに乗ればある程度の距離は稼げるはずという計算もあった。猫の獣人から追い付かれない距離。犬の嗅覚から逃れるための水。どちらも必要だった。
バクは難しい顔をしている。
「嬢ちゃんの推測が正しいのかは分からん。…けどもや!ワテを返して〜な!ワテ、頑張ったやん?ワテの安楽の地に帰して〜な!こんな魚臭いとこ寝られやせいへんやろ!」
私が今寝ている部屋は魚がめっちゃ吊るしてある。私を助けてくれた人は、川釣りを職業にしている方たちで、本当は娘さんの部屋にといってくれたのだか、私が辞退したのだ。
「すまないが、私は信用できない。」
静かに、バクと目を合わせた。私の警戒心は前世からのもので、治りようがない。助けてくれた人でも、部屋を貸してくれようとした人でも、私は。
「信用?何を疑っとるんや?」
私は目を伏せる。バクは人を獣人を疑わない。警戒心などどこにもない。本当に不思議そうに聞く。
「…なぜ、私を教会に連れて行かないと言える?あれだけ大きな建物。すれ違う際に神父様は皆に頭を下げられていた。たぶん、教会の影響力は強い。」
たぶん、警察と教会は同じ役割をしている可能性が高い。
教会に私のような女の子を保護して欲しいと相談されるかもしれない。
だから、外にすぐに出られる場所に私はいる。すぐに逃げられるように。魚の臭いが私の血のにおいを消してくれるはず。
バクにはわからないだろう。息を殺し気配を殺し存在を消す事が、生きる事に繋がる世界など。
のんきな顔のバクの鼻を指先でつついて、ため息をついた。




