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逃げる上で幸いだったのは、時間が夜だった事。私は、夜に生きるもの。夜は私の味方。人の目には見えない暗闇も私の目にははっきりと見える。
走れば、血が流れていくのがわかる。その血が石畳に落ち跳ねる。…血は痕跡にかわる。私を追いつめる。消さなければ。消すには?
危険だとわかっている。だが、私に選択肢はない。…いや、あるのかもしれない。けど私には、思いつかない。
やるしかない。
逃げる道を変更する。暗い路地を出て、大きな道に出る。人通りがあるが、もらってきた…椅子にかかっていた服を借りて…きたからナイフは見えない…はず。血がにじんでいるかもしれないけど、まあ夜は隠してくれるはず。
「なあ〜?どこに行くん〜?嬢ちゃん〜?ワテ、ちゃんと出したやん!もうそろそろいいと思うんやけど〜!」
バクをつかんだ手は、血だらけでバクの毛にからんでこわばっている。走っている今、離したとしてもバクと私の血がからまって上手く離せるがしない。…って今離した所で、バクが地面に叩きつけられて大怪我をさせてしまう未来しか見えないが?私、今走っていますけど?揺らさないように胸に抱えているから振動が伝わらないのか?…バクをつかんだ手を振って走ってやろうか?
はぁはぁと息を切らしながら、全力で地面を蹴り続けるしゃべれない私は頭の中でバクに対して、ちょっぴり殺意が芽生える。
走り続けていると、冬の冷たい空気に、水の湿度が混じる。橋が近い。橋があるのは下に川があるから。
橋の斜面を転がり落ちるように落ちる。バクが何か言っているが、無視する。私は川に用がある。
川の流れがすぐそばにある。上がった息を少しでも整える。ナイフの刺さったままの胸からじわじわと伝う血。
やるしかない。私はここで死んだ。
幼い子供の身体はもろい。川から逃げようとして流された。そう見せかける。
川は夜の色に染まり、ゴウゴウと音を響かせて何もかものみ混んでしまいそう。…怖い。川に飛び込むなんてした事がない。足が竦む。
「な、なぁ?嬢ちゃん?な、何考えとるん?怖い事考えてませんか〜?あー危ないで〜!なぁ?」
馬鹿な事なのかもしれない。わかっている。それでも私は、生き残るために全力を尽くす。
着せてもらった紺色のワンピースの裾をちぎる。ナイフを抜くことも考えたが、ナイフを抜けば出血がひどくなる。吸血鬼だからここまで走る事ができたが、出血しすぎれば多分、死ぬだろう。
呼吸をする事に、口にたまる血を飲み、私は覚悟を決めて川に飛び込んだ。
「いや!やめて!ワテを道連れにしんといて〜!」
うるさいバクも道連れに。




