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血がたれてくる。否応なく。口の中にたまった血を吐き捨てて、血だらけの手でぬぐう。…たぶん、もっと汚れたのだろう。…だか、かまうものか。
バクをつかむ手に力が入って、バクの胴体を締め上げる。
「カハッ!いや!なんなん!?はい!?うちどないしたん!?どんな状況じゃい!」
バクの口から出る関西弁みたいなイントネーションに、ちょっと脱力した。カナヤと私の睨み合いのこの緊迫した空気をぶった斬ってくれたから。
「出して。ここから。」
カナヤから一切目を離さずに、バクに言う。
「はぁ?いや、出すってあんたさん?何を言うとりますの!?あ?えっ血ぃ出てますやん!ナイフぅ刺さってますやん!ちよ、手当てせなー!あー!血だらけの手ぇでつかまんといてー!オキニのパジャマがー!」
今更、私の身体にナイフが刺さっている事に気づいたらしい。お気に入りのパジャマが大事なのか。…本当に脱力する。だか、この部屋から出してもらわない限りバクを離す事はない。
「出して。出さなけれは握りつぶす。」
冗談でもなんでもなく私はやるだろう。私の優先順位は決まっている。兄さん、私、その他は無いのだ。私の中に存在しない。バクをつかむ手に力を込めると、私の本気をようやく感じ取ったのか、バクの身体が震え出した。
「…出しますぅ。出しますから、離してぇ!」
バタバタ短い手足を動かし出した。ここから出るまで、バクは人質。ゆっくりと足を動かし扉に向かう。カナヤがため息をついた。
「待ってください!サヤさん!」
神父様が慌てて説得してくる。
「あなたを混ざりものと判断したのは、早急過ぎです!聖本堂に行き成否をはっきりさせましょう!」
聖本堂が混ざりものと判断するのは、分かりきっている。先輩と呼ばれるカナヤがここまではっきりと私を殺す対象としているのは、前例があるからだろう。そして、カナヤはたぶん何度も処分をしてきている。
明らかに、人を傷つけ慣れている。
同じ人間だと思っていない。害獣が出たら、被害が出ないうちに殺すのが当然の仕事だと思っている。そして、神父様のように、神様を信じている敬虔な信者には、見せないのだろう。…美しいところしか。まるで子供にガラス細工を見せてあやすように。
私の存在は、ガラス細工についた一筋の傷みたいなものなのかもしれない。
…いいじゃないか。そのガラス、壊して踏み躙ってあげよう。私が現実の泥を見せてあげる。
血だらけの顔に笑みが浮かんだ。




