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混ざりもの、人とは相入れないもの。わかっていた。…わかっていた。退治されてもいいと思っていたが、兄さんの哀願を思い出した。
微かでかすれた声と私を抱きしめた指の強さ。私の肩にのった顔の熱を。
あれは、前世。今は、兄さんはいない。それでも私は兄さんとの約束は破らないと決めている。
どこにいったとしても。兄さんだけは裏切らない。
私は私が嫌いだ。兄さんしか大切じゃない。私は私を切り捨てられる。ためらいもなく。その事を兄さんは知っていた。…だから、私に願いという名の呪いをかけた。
死ねない。こんなところで。手の平を握り込む。
神父様とカナヤは、私に目もくれずに話し込んでいる。私たちをいたぶって楽しんでいた両親とは違い、虫を踏み潰すみたいに一切の躊躇なく殺しにきたカナヤ。どちらも恐ろしい。…そして腹立たしい。
私は、痛ぶられ殺されるために生まれてきたんじゃない。
私は生まれた意味など、無い事を知っている。ただできておろせなかったから、産んだだけ。そんな事とっくに気づいていた。
混ざりものだから、人とは相入れないものだから死ななければならない?私の意思は、心は、なかった事にされるのか?人を襲う化け物に私は見えているのか?ただ、食べ物が違うだけで。
ふざけるな。
握った手の平に力を込めると、爪が熱くなる。むずむずして、爪が伸びてくる。鋭く鋭利に。
私の身体が、私の意思に従う。…倒せ。逃げる。殺さなければ、殺される。父を殺したように、私は兄さんと私を傷つける者を許さない。
歯をくいしばり、すぐそばにあるカナヤの靴に、爪をたてる。
はじめて伸ばした爪は、皮の靴などもろともせずに、ぐちゃりと音を立てて足の甲に突き刺さった。
「っう!」
カナヤが苦痛の声を上げる。下を向いた瞬間に私は素早く上体を上げ、足に全力の力を込め飛び上がる。テーブルの上に着地し、机の上にあったご馳走を蹴り飛ばし、壁の近くにあった棚の上に。そこから、バクのいる巣に駆け上がる。
身体の使い方は、身体が一番よく知っている。意思よりも本能が身体を突き動かす。
水玉模様のパジャマを着たバクを血だらけの手で握り込む。ぐぇと小さく鳴き声が聞こえたが、気のせいと言う事にして、強盗さながらに、人質にとる。
天井に近いところからふわりと下に落ち、カナヤを見上げる。神父様は、口を開けたまま固まっている。カナヤは、まゆをよせ憎らしげな顔を隠しもせずに、私を睨みつけてきた。
さて、バクを片手にこの部屋からどう出るか。
内心冷や汗をかきながら、カナヤを睨み返した。




