表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正しい吸血鬼のなり方  作者: 冬月 葉
39/44

39

 蝉が鳴いている。いつもよりも鮮明に聞こえてうるさい。

 ごほごほと唾と血が混じり合った咳が、耳鳴りのする耳に遠く聞こえた。

 あれだけうるさかった声が、無くなって、兄さんの荒い息遣いと蝉の声が重なり合い聞こえてくる。


 あぁ、これは夢か。


 明晰夢というやつかと、冷静な私が考える。夢を見ている認識がある。だか、これは夢ではない。この夢は、過去の記憶。うっすらと覚えている記憶の再体験。…そして、見たくもない人たちの顔。


 会いたくてたまらなかった兄さんの顔。


 兄さんに触れたいのに、感覚が薄い。自分の身体ではないような浮遊感。


 夢は続く。


 地獄は、ここにある。手をつないだ体温だけが、私を踏みとどまらせてくれた。


 シャワーの音が、鳴っている。


 排水溝に血が流れている、私が殺した父の死体。 

 リビングの床に転がっている物。


 血が床に染み込んでいるのは、兄が殺した母の死体。


 私たちは、ただ流れる血の音を聞きながら空をながめていた。お互いの手だけは離さないまま。


 兄さんが、ポツリと言う。


 「……処理しなきゃな。」


 処理。そうだ。処理しなきゃ。これは、もう人じゃない。


 「……そうだね。」


 父に熱湯を浴びせられた兄の顔は、真っ赤に腫れあがり痛々しい。そっと手を伸ばして触れる。


 「…冷やさないと。」

 

 「お前も。」


 私の首にそっと指先が触れる。はっきりと締められた跡と長い爪の刺し跡から血が流れている。


 兄さんの指先に血がつく。


 「やめて。触らないで。…汚い。」


 あの物と同じ血が嫌だった。兄さんについたら、汚れてしまうみたいで。


 「汚くない。…俺も同じだろ。」


 同じ血。そして同じ罪。暖かい体温。暑いはずなのに、冷え切った身体は同じ体温がなければ、凍りついてしまいそう。


 「…大丈夫。守る。必ずお前だけは。」


 嫌。守られるだけは嫌。


 「私も守る。絶対に。兄さんだけに背負わせたりしない。」

 

 私たちを助けてくれなかった人たちに、なぜ傷つけられなければならないのか。私たちは、自分を守っただけ。これ以上、誰にも傷つけさせない。


 「…そうだな。」


 血のむせかえるにおいの中で、正常に状況を確認して、手を洗い、火傷を冷やし、笑い合う。


 異常で正常な私たちは、淡々と父と母だった物の処理をした。


 四人だった頃にはあり得ないほど、幸せそうに笑いながら。声をあげて笑った。 


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ