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初めて肉球に触れた。犬様の毛並みはツヤツヤで肉球は、暖かくプニプニしていた。前世の夢が叶って感激している私を、犬様は優しく見守ってくださっている。…できるならば、毛並みの豊富な頭から背中にかけて撫でてみたい。
キラキラした目が、欲望にかられてギラギラした目になっていくのを、神父様が止めてくれた。…やばい。セクハラをしてしまうところだった。…食欲もやばいが、願望が目の前にあれば私は痴漢に成り果ててしまいそうです。
必死に手を離す。名残惜しく指先が震えるのを許してほしい。
「もう、よろしいのですか?」
腰がくだけそうな低音で、からかうように言う犬様は、超絶カッコよかった。…トキメク。もう、惚れてまうやろー!顔を真っ赤にする私。…神父様が、ぽつんと私たちのやりとりを見ていた。…すまん。神父様。あなたより犬様にドッキュンです。
「…あの、もういいかな?」
神父様のためらいがちの声にハッと気づいた。
「はい。すみません。」
醜態を見せてしまった。いや、でも仕方なくない⁈だってもふもふにいい声に執事服だよ。耐えられなくない⁈…わかっている。逆ギレです。
「では、お食事とお風呂。どちらになさいますか?」
「私は、食事を。彼女は、」
チラリと私を見る。私が希望を言っていいのかな?神父様を見上げると小さく頷きうながされた。
「…私は、お風呂をお願いします。」
身体の不快に気づいてしまえば、耐えがたい。血の匂いも気になり始めた。…血を飲んだ姿のまま着替えもせずにシスターにもらったマントをはおっただけ。血を吸ったワンピースに聖水が染み込んでマダラになっている。…小汚いわ。私。
「お嬢様に、案内をつけますね。」
お嬢様なんて、恥ずかしい。あーもう。いい声で言わないで。黒いつぶらな瞳を細めないで。ガン見しちゃうでしょ。ポフポフと肉球を叩いてかわいい音がする。ススっと出てきてくれたのは。
ツヤツヤな真っ黒な毛並みの猫様。しかもメイド服。二足歩行。前足には犬様より小さくピンクな肉球。
えっ。夢見てる?私、生きるか死ぬかだったよね。前世二番目の夢が、今ここに。
「っ、握手してください!」
黒猫メイド様に、思いっきりオタク全開で握手を求めた私は悪くない。…たぶん。




