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受付の女性の奥に扉がある。棚で偽装されていて分かりづらい。棚には本がいっぱいあって、神父様はその本の中から一冊を取り出した。…すごい。なんかスパイ映画みたい。
扉のドアノブの下に、郵便ポストみたいな穴が開いている。その中に選んだ本を差し込むと、かちゃんと軽い音が聞こえた。…すごい。本物の隠し扉だ。鍵付き。カッコいい。
思わず、目をキラキラさせてしまう。いや、やっぱりテンション上がりますよね。憧れてた訳じゃないけど。やっぱりさ。
なんとなく恥ずかしくなって言い訳をする私。
「行きましょうか。」
その様子を微笑ましく見守る神父様。その視線に気づいてますます顔を赤くする私。…いや。見ないでください。…ほんと、穴があったらスライディングする様に入るわ私。
一瞬の酩酊感のあとに、広い空間に出た。一つだけぽつんと普通の扉がある。
扉を開けて中に入ると、犬がいた。
は?犬?疑問符が頭の中を舞う。目をこすり、もう一度見ても犬。
「おかえりなさいませ。」
しっぶい低音の男の人の声がする。うっわ。いい声。私、前世から声フェチ。顔を覚えず声で人を判断していたぐらい。…人の顔を見るのがあまり得意じゃなかったから。…いや待て私。前世を思い出して現実逃避している場合じゃない。
犬から、いい声が出ている。
よく見れば、服着てる。そして、立ってる。二本足で。でも、犬。顔完全に犬。金色の美しい毛並み。たれ耳。つぶらな瞳。そして前足からチラチラと見えるピンクの肉球。
一目で、どストライク。昔から飼いたくても飼えなかった憧れの犬様が今ここに。
「ただいま。すまないね。食事の用意を。あと、お風呂の用意も。」
チラリと私を見て言う。はい。私、薄汚れてますね。独房の中にけっこう長い間いたし、その間身体を拭くなんてしていない。…もしかして、臭ったか?不安になる…が、私は、犬様から目が離せない。
「あの、握手してください。」
犬様がしゃべる事も、服を着ている事も、この部屋の事もすべて棚に上げて、私は一歩犬様に近づく。憧れの犬様に向かって手を差し出した。
神父様も犬様も目を丸くしていたが、知ったこっちゃなかった。私は欲望のまま手を出し続ける。




