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今世で、移動するために列車に乗るのは初めてで、ちょっぴり興奮気味です。
座席は、前世と比べてはっきりきっぱりいえば、雲泥の差で、金属製の台座に布を貼っただけみたいで、揺れるとお尻が痛い。窓も、くもりガラスのようで外の様子がよく見えない。聖職者なので、とりあえず私も席に座れたが、座席数が少ないので立ったままの乗客が少なくない。…その不満をなぎ倒すぐらいに私、初めての列車にドキドキしている。だから。
窓に張り付くぐらいは許して欲しい。
くもりガラスでも、少しは外の様子が見える。孤児院から出た事のない私には、新鮮で刺激的すぎる。他の子供たちよりも食べられなかったので、成長が遅く、多少。うん多少、小さい私は窓の外を見るにも、ぴょこぴょこしなければならない。そうすると、私の身体に合っていないローブが脱げて、銀色の髪が出てきてしまう。
すると、落ち着きのない、初めての旅にワクワクする一人の子供の出来上がり。
周りにいる人たちから、生暖かい目を向けられている事に、気づく事は出来なかった。
そして、神父様の緊張が、ちょっぴり溶けた事にも気付けずに、ただひたすらに窓にぴょこぴょこ張り付いていた。…後から、気づき赤面することになる未来を、今のぴょこぴょこしまくりの私は、知らない。
駅に止まっては、神父様をうかがい、ここではないと首を振る神父様。私は、ぴょこぴょこするのにも飽きてきて、手首に結ばれた紐を見ていた。それに気づいた神父様は、申し訳なさそうに言う。
「…すまない。はぐれてしまうと困るので、後で必ず外します。…もう少し、我慢して欲しい。」
私は、ぷるぷると首を振る。
「…気にしていません。」
本当に、気にしてなどいなかった。…それところか私は、安堵したのだ。
私を、止めてもらえると。
今世の私が、怒りに対して素直すぎる。怒りは、前世の私を飲みこみ、暴力には暴力を使おうとする。理性はあまりに役に立たず、本能に忠実に生きようとする。…今、私は、今世の方に引きずり込まれかけている。
幼い子供の私が、初めての旅を喜ぶように、私は、人を傷つける事に、躊躇しなくなってしまう。
怒りの感情の昂ぶりと共に、少しだけ鋭利に伸びた爪を、手の平に食い込ませて、神父様を見つめながら、もう一度、首を横に振った。




