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緊張していた。それは、否定できない。
幼い子供と手をつないで歩く。それは未知の事で一人っ子の僕は、あまり…というか全然、手をつないで歩くなんてした事がなかった。逆に、手をつながれて歩く事もなく、父母共に、子供にかける時間はなく、それをさみしいとは思ったが、忙しい両親をわずらわせるなんて出来なかった。
だから、にぎったはずの手が離れても、仕方がない。はず。
小さく、幼いとしか言いようの無い手を、にぎりは潰さないように軽く触るぐらいの力しか、入れられなかった。そしたら。
僕の庇護下にある少女は、男に巾着袋を差し出していた。
だか、その小太りの男は、巾着を取られたと勘違いしたのか、少女を突き飛ばした。
尻餅をついた子供と、怒りに顔を染めた小太りの男が、子供の胸元をつかみかかろうとしているところで。
周りの話では、子供が財布をスったらしいと。…おかしいだろう?なぜ、財布をスった子供が、男に財布を渡そうとする?なぜ、周りの人達は、疑問を持たないのか?…なぜ、子供のために、声を上げようとはしないのか?
わかる。…わかってしまう自分がいる。
巻き込まれたくないのだろう。関わりたくないのだろう。わかる。けれど、僕は聖職者なので。
少女をかばおうと動こうとした時、少女の雰囲気が、変わる。うつむいた顔を男の方に向け、笑う。その横顔はあざけりに満ち、瞳の色が、濃く深くなっていく。…鳥肌が立つ。ダメだ。あれは、ダメだ。
男をかばうように、僕は、少女の前に立つ。
聖職者は、嘘、偽りを言ってはならない。戒律により定められている。それは、周知の事実。
小太りの男は、怒りをサッと消し、汗ばんだ額を雑に拭き出した。
「すみません。間違いだったようで。」
それだけ言い残し、少女に一言の謝罪もなく、足早にホームを去って行った。
後ろを振り向く事が、怖い。…この少女は、血を吸う悪魔。だが、財布を届けようとした子供。
この少女はあの男を蔑み、怒りに任せて行動しようとした。…何をしようとしたかは、わからない。だが、僕が止めなければたぶん、血を流す事になったのではないだろうか。…本能的に思う。
後ろから、かすかに、声がかけられた。
「あの…あ、りがとう。」
その声は、本当に幼く、小さく、か弱かった。
蔑む顔が、頭をよぎる。この声が、耳を通る。
鳥肌が止まらない。手を差し伸べなくてはならないはずなのに、動けない。
本当の君は、どちらなのだろう?




