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赤子の可愛さ武器になる。私はそれを実感している。
子を失った母にとって、可愛らしくふにゃふにゃと微笑みながらお乳を欲しがる子供は、正義らしい。…血をすする吸血鬼であっても。可愛らしさに目がくもり、何も気づかないくらいには。その優しさに、自分の本能を優先して今日も生きる糧を得る。
仕方のない事だった。…そう思うしかない。どうしようもない。生きる事に誠実だった。生きている意味など考えもしなかった。
自分を助けるために、相手を喰うのは当然だと赤子の私は考えていたのだ。
その考えが、壊されるのは前世の記憶が戻ってしまったからだ。喰らう事に、すする事に躊躇が生まれしまった。…私の平凡過ぎて飽き飽きしてしまう程に、平和だったあの優しい日々が、私を、吸血鬼としての本能を、生きたいという欲求を、鈍らせてしまった。
乳飲み子を卒業し、少し大きくなった私は、血を得る術を失った。人の食事は、私にとって味が無く口に入れる事すら苦痛であった。それでも食べたのは、それが普通の人間の営みだったから。
食べなければ不審に思われる事を私は知っていたからだ。紛れなければならない。はみ出してはならない。普通という殻をかぶらなければ、生きてはいけない。私は知っていた。…本能的に。無意識に。
獲物を捕食する獣のように。闇に紛れ、眼を光らせ気づかれないように忍びよる厄災のように。
あの優しいあの子に突き飛ばされるまでは。