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そうだった。私、人と手をにぎる事が苦手だった。今更、思い出す。
今世、人の手に触れる事を嫌がったのは、その手首に、脈があるから。脈は、心臓の鼓動。心臓の鼓動は、血の流れ。…そして、血の流れは、私にとって食欲をかきたてるモノ。
手首を触ってしまえば、私は。
トクトクと、脈打つ心臓の鼓動をにぎる手の平から、感じる。聖水と血で満たされているからこそ、耐えられる。そうじゃなければ。私は。
下を向き、神父様の血を意識しないようにする。
人の靴を観察してやり過ごす。靴は色々あり、革製品も木製品も布製品もあり、人々の生活や経済状況が見えるようで、面白かった。
コツっと足音の中から、音が聞こえた。何かが落ちた音。血か聖水のおかげで、耳がよく聞こえるようになった私に届いた音。足音が響いているホームでは誰も気付けない音。
私は、神父様の手をするりと抜け、音のした方へ向かう…落とした人がいる。拾って届けてあげなければ。大切なモノだったら。小さな身体は、こうゆう時に便利で、足元ならばチョロチョロと潜りこめる。…あった。巾着袋の財布。人の匂いは、皆違う。この匂いは。キョロキョロと匂いの元を探す。煙と油と汗。…いい匂いとはいえない匂い。でも。困っているかも。
私は、探して落とした人の服をつかんで、財布を渡そうとした。
「あの、これ。」
振り返った小太りの男の人は。
「盗みやがったのか!このガキ!」
財布を私の手からひったくり、私を突き飛ばした。ローブのフードが後ろに外れて、銀の髪がホームの床に広がった。私は、初めての明確な敵意に、呆然としてしまい動けなくなってしまった。
赤い目を見開き、私を害そうとする人を見ていた。
周りの人たちは、迷惑そうに見ているか、面白い劇でも観るようにだだ私を、観察している。
助けようとしてくれる人は、いなかった。




