10
独房の上にある窓から差し込む月の光に照らされた銀髪の少女は、紅く赤い瞳を見開き、ジッと僕を見つめている。感情を表すはずの瞳は空虚で、作られた人形だと言われれば信じてしまいそうだ。
美しいかった。
幼い子供のはずなのに、完成した精巧な美。
この子が、悪魔。殺す相手。僕の役目。聖水を浴びせなくては。抵抗されれば剣で首を切り落とさなければ。僕の役目。
魅入られたように、手が身体が動かない。
「どうかなさいましたか?」
年配のシスターの声で、ようやく我にかえった。
「…この子が、悪魔ですね。」
わかりきった事を聞く。赤黒い血に染まった手。服にもべったりとおぞましき血が染み込んでいる。間違える事のない事実。
「…悪魔。そうですね。悪魔。」
シスターは声を詰まらせる。僕から目線をそらし血の気が引いた顔をして、手を組んでいる。組んだ手は、かすか震えている。
「…血をすすっていました。…でも、あのこの子は、あの、本当にいい子で。何か、あの間違いではないかと思うのです。静かな穏やかな子で。…だから、あの、悪魔ではないと証明していただきたくて。」
信じたくないのだろう。たぶんこの子を育ててきたシスターだ。世話をしてきたのならば、情がわくのは自然な事。…悪魔が教会である孤児院にずっと暮らしていたなんて、信じられないのだろう。清浄であるはずの空間に、血をすする悪魔がいたなんて。
「…わかりました。聖水を使用させてもらいます。」
聖水は悪魔にとっては毒になる。浴びせれば、必ず苦しみ始める。悪魔ならば。
その言葉を聞いてなお、銀髪の少女は、だだひたすらに僕を見つめていた。毒をあびせられる恐怖もなく、なんの感情もなく、僕だけを見ていた。
床に座りこみ、抵抗などなく、指一本すら動いていないのに。その視線の強さに、僕はなぜだか、恐怖を感じていた。