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復讐は内密に  作者: K
4/12

4. 種まきは慎重に

※ 本作には「アレルギー」に関する描写が登場しますが、あくまで異世界ファンタジーとしての演出です。

現実の疾患を軽視・揶揄する意図は一切ありません。

バルドートを始末する前に、やるべきことがある。

父への種まきだ。

まともな会話すらほとんどない父との関係に、直接手を加えるのは難しい。

だが彼の身体に“蓄積”させるだけなら、やりようはいくらでもある。


「お父さま、少しだけお時間をいただけますか?」

久方ぶりにかけた声に父はわずかに目を細めた。


「……どうした」

警戒とも無関心ともつかぬ声色。

それに微笑で応じながら、リディアーヌは銀の盆に並べた茶菓子の皿を差し出す。


「最近、お父さまもお忙しいでしょう?お身体を崩されないよう、少しでもお力になれたらと思って」

「ふむ……」

皿の上には、特製の焼き菓子が三種。

ナッツ、甲殻類、そして香辛料を少量ずつ用いた繊細なレシピ。

あまりに微かな香りと風味は舌に触れたかすら、曖昧なほど。

……だが、それでいい。今はそれで。


「貴族の子女が厨房に口を出すとはな。だがまあ、よい心がけだ」

ひとつを口にしながら、父は皮肉のように言った。

リディアーヌはうつむき加減に小さく微笑んだ。


(気づくはずもないわね、こんな程度の違和感では)


ほんの少しずつ。

体内に“異物”を覚えさせていくように。

いつか、拒絶反応が臨界を越えるその日まで――。


「お気に召したなら、またお作りしますわ」

「……ああ」

咀嚼する父の喉仏が上下するたび、リディアーヌの瞳は静かに細まる。


“地獄”への種は、すでにその腹に、落ちていた。



父に毒を含んだ優しさを贈りながら、リディアーヌは次なる標的へと意識を向けていた。


――バルドート。

あの男の傲慢さ、無知、そしてリディアーヌへの下卑た笑み。

何も変わっていなかった。

だが、今回はリディアーヌが変わった。


(始末するなら今しかない。父より先に、こいつを“崩す”)


バルドートの反応は、彼の言葉以上に雄弁だった。

過去に刺されたというなら、再び刺されればどうなるか。

その結末は、リディアーヌの中で既に決まっていた。


「けれど……」

リディアーヌは応接間の窓を閉めながら、慎重に思考を巡らせた。

現実の蜂は、扱いが難しい。

手懐けられるものではないし、毒性が強すぎれば周囲を巻き込む。

ましてや王都の中で意図的に蜂を放ったなどと露見すれば、リディアーヌもただでは済まされない。


(毒蜂なんて、簡単に手に入るものじゃないわ)

捕まえるとしても季節は限られているし、下手に動けば疑われる。

蜂の巣を持ち込むなど論外だ。

だが、毒性のない“それらしいもの”なら演出に過ぎなくとも、十分に効果はある。


「……叔父さまなら、何か知っているかしら」

アシェルは表の貴族社会では穏やかな風変わり者を演じているが、裏ではありとあらゆる“奇品”や“薬物”、時には禁じられた毒草の情報すら網羅しているらしい。

母がよく“顔は良いのにね”と呟いていたから、彼の噂は案外正しいのかもしれない。


……けれど、果たしてアシェルは“味方”なのだろうか?


リディアーヌの中に、一瞬だけ迷いが過った。

都合のいい情報をくれる存在であることは確かだ。

だが彼の本心は、あの深海のような眼差しの奥はいまだ読みきれない。


「……それでも」

婚約の話を聞いたときの、あの静かで、痛みを抱えたような眼差しがリディアーヌに敵意も無関心さえも感じさせなかった。

胸の奥で、何かがふっと熱を帯びる。

リディアーヌは迷いを断ち切るようにペンを走らせ、小鳥の脚へ手紙を括りつけた。


「毒蜂に似た、無害で制御可能な昆虫をご存知でしょうか」


一度目の羽ばたきで、藍と金の羽を持つその小鳥――“ピピ”は、彼女の一縷の信頼と共に、空へと舞い上がっていった。

羽ばたいていくピピを見送り、応接間に残る紅茶の残り香の中で、静かに笑みを深めた。


(あなたの“アレルギー”を、社会的に暴き出してあげるわ。バルドート)




****

最後までお読みいただきありがとうございます。

数ある小説の中からこの小説をお読み頂き、とても嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
誰もがアレルギーを持ってこと前提で書かれているのが不思議です。 父親はヒソのような、蓄積型の毒を仕込むのかと思ったのですが、アレルギーテストしただけ? でも連続で食べたらどれに反応したのかわかりません…
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