18話 運命の出会いへと続く過去 ~ 清雅襲撃 其の1
あれから数日が経過、遂に襲撃決行日を迎えた。
「じゃあ、精々頑張りなよ」
後1時間もしない内に地球と呼ばれる星の一角で私達は血を流し合う。タガミからの投げやりな通信が切れた事を確認後、全員が最終確認作業を再開する。
馬鹿正直に訓練用の武器で戦闘を仕掛けるなど命を捨てるようなもの。そう考えた仲間達は各々の伝手を頼り、交渉を行いアップグレード用のパーツを横流しして貰った。
艦の秩序と治安維持を理由に武器の製造には厳しい管理と制限が、改造は法で禁止されている。タガミ達に見つかれば立場の悪化は必至。
スサノヲには緊急時に限り法を無視する権利が与えられるが、現状でその言い訳が通るとは思えない。指示を守って死ぬか、法を破って生きるか。何れにせよ、腹を括らざるを得ない。
「予想通りだな。クズリュウではなく俺達を使うって事は、少なくとも現状では実戦に出せる程の練度に達していないんだろう」
「あるいは、地球の情報収集役かもな?」
「何れにしても俺達のする事に口は出せても止める事はないと踏んだが、どうやら賭けには勝ったらしいな。ここで邪魔をすれば目的が果たせないからな。とは言え……」
一人が不意に言い淀んだ。彼はスクナに代わりスサノヲを纏めるよう言伝された第一部隊の隊長、イヅナ。
「可能な限りの手段を講じたつもりだが……すまん、俺の伝手ではこれが限界だった。おおよそ半分程度しか改造出来ないが、これ以上は流石に見つかると言われた」
「それだけじゃないだろう?」
イヅナの弁に誰かが援護を入れると――
「財団、か」
別の誰かが追従した。話題に上ったのはザルヴァートル財団。同名の一族が運営する関連企業を総合すれば連合経済圏の1割以上という、連合最大の財閥。その影響力はアマテラスオオカミ、姫という連合の二大頂点に次ぐ程に巨大だが、2年前を契機に影響力を更に拡大したと聞いている。
「あの件以後、奴等の影響力が日増しに大きくなってる。俺が当たったところもそうだ。『目をつけられると何を要求されるか分からない』って理由で援助を断られた」
「奴等を無視するのは、もう不可能だな」
「神の居ぬ間に、か。財団総帥は清廉と聞いたが、果たして末端はどうかな」
「上の連中だけでも頭が痛いというのに」
誰もが悪化の一途を辿る現状に頭を悩ませる。本来、師がこの場にいたならば皆を叱責しただろうが、今は不在。とは言え、果たしていたところで咎めたかどうか。それ程に現状は行き詰まっている。
「無駄話は一旦止めだ。各自に改造した武器が行き渡る様に調整、状況に応じ使い分けてくれ。多少マシなパーツを回して貰ったとは言ってもこんな玩具みたいな性能では、な。だが嘆いても解決しない。皆、スマンが今日は我慢してくれ」
全員がイヅナの言葉を聞きながら、武器の改造と設定を黙々と行い続ける。パーツの付け外しと試運転を何度も何度も繰り返しながら、慎重に、何度も何度もチェックする。全てが終える頃には誰の顔にも安堵の色が浮かび、同時に武器改造の為に奔走したイヅナ含めた数名に感謝の言葉を投げかけた。が、誰も厳しい顔つきを崩さない。特にイヅナは、師であるスクナの代わりを務めようと必死に努めている。
「ミカゲ、悪いが彼女に付いてやってくれ。代わりに改造した武装を優先的に回す。ルミナ、横流しして貰った改造パーツの規格は基本的に俺達に合わせられている。くれぐれも無理はしないでくれ」
そのイヅナが私の元にやってくると、仲間達からの感謝を遮り、私に配慮するよう別の仲間に求めた。イヅナの指示を受け、数人が武器の交換を始める。私は改めてイヅナや仲間達に感謝を伝えた。
皆の表情が心なしか綻んだ。が、次の瞬間には険しい顔色に戻る。幾分かマシにはなったとは言え、心許ない状況に変わりはない。加えて、相手は未開とはいえ未知の戦力。自然、場の空気が緊張に支配される。
「こんな程度の小細工、ウチの神様なら即座に看破するんだがな」
「だが誰も気付かんってのは、やはり人手も含め何もかもが足りていないんだな。これじゃ運がいいのか悪いのか」
ふと誰かがそう漏らすと、周囲の誰もが黙り込んだ。再び静寂が訪れる。旗艦を監視し、調和と維持に努めていた私達の神、アマテラスオオカミは現在その機能を停止している。いや、させられた。以後、旗艦の状況は悪化の一途を辿り続け、遂には師が拘束されてしまった。
悪辣なタガミの性格を考えれば時間の問題だったと、誰もが口を揃える。私もそう思い、師に抑えるよう幾度か進言してきた。が、連日の任務による疲弊にタガが外れたのか、我慢の限界を迎えてしまった。
スクナに代わりスサノヲを取り纏める総代を任された重責に負けまいとイヅナは奮闘するが、彼の顔色も優れない。今の立場だけが辛うじて自らを踏ん張らせている様子が良く分かる。このままでは、何れ彼も――
「各自、武装と防壁の最終確認。翻訳機能の再確認も怠るな、俺達は言葉が分かっても向こうはそうじゃないからな。ルミナ、大丈夫か?こんな状況で、君も運が悪いな」
「いえ、大丈夫です。ご心配なく」
指示を出しながらも絶えず私を気に掛けるイヅナの態度に何処か少しだけホッとした。が、咄嗟に問題無いと口に出てしまったが、本当はそれどころではない。そもそも身柄を拘束された師の穴埋めとして襲撃部隊に配属されるなど予想していなかった。それに何より私は――
「作戦時間だ。各自、最後に抗微生物、抗有害物質用のナノマシンを服用。情報では当該区域に致死性の病原菌類は検出されなかったらしいが、ここまでの対応を見るに信用など到底出来ん。効果は約80時間。十分過ぎるだろうが、悠長に時間を掛けるつもりはない。速やかに調査を完了、可能ならば確保まで行う」
抑えきれない緊張に支配される中、とうとう作戦開始時刻を迎えてしまった。全員が経口薬を飲み込み、終わった者から出発する。私も艇内に設置された指定座標転送用の短距離転送門の前に立った。
足元から下、その灰色の空間は指定座標と直結しており、飛び込めば距離も時間も無視してその場所へ移動する事が出来る。
飛び込めばもう戻れない灰色の光の先は未探査の惑星。しかも知的生命体による反抗が予想される危険な場所。おまけにロクな装備も与えられていないという状況が更に状況を悪化させている。もう少しちゃんとした束ね方をした方が良かっただろうか、飛び込んだ瞬間に目の前をたなびく長い髪が視界に入った時に、何となくそう思った。




