第十二話「鮮血に染まる光の渦は」4
一方、懸命な消火活動を続ける羽佐奈達にも魔女狩りの魔の手が迫っていた。
「想定通り、この劇場に来ていたか……」
この非常事態にも関わらず、不自然なほどに冷静な声を聞いた羽佐奈が振り返ると、そこにはライルとアリシアの姿があった。
合図である爆弾の爆発音と共に地下駐車場からやって来たライルは既に標的である羽佐奈の姿を正面に捉えていた。
真っ黒なカソックに身を包み、胸に十字架のネックレスを付けた神父、ライルの言葉を聞いた羽佐奈は即座に尋常ではない強い気配を感じ取った。
「これが貴方の望んだ事態なのかしら? ライル・ローレンス」
必死の消火活動が続けられても、燃え盛る炎は煙を巻き上げながら広がっていく。羽佐奈は残虐非道な行為を非難する意思を示した。
黒江から聞いた話と特徴が一致する魔女狩りの首謀者。
羽佐奈はすぐさま卓越した能力を所持した魔女である自分が狙われていることを察した。
「忌まわしき魔女共に贈る言葉はない、ここで死んでもらおう」
「そう簡単に殺されるわけにはいかないのよ!」
ライルの言葉に感情が沸騰した羽佐奈は即座に戦闘態勢に入り、梔子色の瞳を輝かせ、全身から魔力を発現させた。
魔力によって次々と姿を現すガラス細工のような美しき鳥の使い魔達。
一羽一羽が術者の意思に従い行動する使い魔は高速でライルへと向かって飛翔していき、その身体を引き裂こうと迫っていく。
だが、何人もの魔女を亡き者にしてきた男はそう簡単に肉体を引き裂かれる器ではなかった。
その場で魔銃を懐から取り出して構えを取ると、正確な射撃で次々と使い魔を撃ち落としていく。
ガラスが割れる音と共に使い魔は形を失い、その場で消えていく。
四方八方から次々に襲い掛かる使い魔の特攻を回避行動を取り、器用に躱しながら狙撃する姿はとても教会の神父とは思えない瞬発力だった。
「魔女の攻撃は予習済みだ。赤津羽佐奈、日本で最強の能力者とはいえ、年齢による衰えは避けられないだろう」
軍人でもないエクソシストであるライルは、鍛えられた動体視力で羽佐奈の得意技を封じていく。
全盛期の頃の行使力であれば、より高速で相手を翻弄していた使い魔も年々速度が低下していることは羽佐奈自身も自覚しているため、動きを見切りられてしまうのは致し方ないことだった。
一度攻撃を防ぎ切り、羽佐奈の顔面に向けて照準を向け、冷酷に言葉を突き付けるライル。
後ろで消火活動を続ける友梨やスタッフのためにも、羽佐奈は簡単に引き下がるわけにはいかなかった。
「そこまでの能力がありながら、テロリストだなんて残念よ。
ここでお別れしてもらおうかしら」
魔女狩りを相手にしている以上、強気の姿勢を崩すことなく、羽佐奈はさらに使い魔を呼んで四方から隙を狙っていく。
迫る使い魔を横目で捉え、正確な射撃で撃ち落とすライル。
ロングレンジで繰り広げられる百戦錬磨の二人の決闘。
まだ序章に過ぎないような余裕さを見せながら、互いに相容れぬ二人がぶつかり合う。人類の進化を象徴するような異次元の戦いを二人は繰り広げていく。
魔女狩りと魔女との聖戦が開戦したその後ろで、周りのスタッフが巻き込まれないためにファイアウォールを展開する友梨。
そして、八千羽にはライルの右腕として行動を共にするアリシアが対峙していた。露出の少ない男性的な服装に身に纏った褐色肌のアリシア。
八千羽は飄々として思考が読めないアリシアの力量が見えて来ず、警戒心を強めた。
「どうしてこう、神を信仰する人は皆揃って頭が固いのかしら。
あたしは貴方と戦いたくない。でも、自由になれない貴方にはそれは選択できないのでしょうね」
「我は自分の意志でここにいます。ファザーとシスターの理想は我の理想でもある。敵の言い分など、我の耳には届かぬ」
「それが頭が固いって言うのよ。人間の持つ理想なんてそう大差はないのに。世の中が変わっていく事を受け入れられなければ争いは何時まで経ってもなくならないのよ」
「分かり合う気はありません。我らが神が道標となって我を導いてくれますから」
「あらそう……なら、子どもとはいえ、分からず屋は遠慮なく切り刻んであげますね」
「我は子どもではない。世界をあるべき形に戻すために戦う戦士だ」
両手に握った剣の片方をアリシアに向け、鋭い瞳を輝かせる八千羽。
子どもを産み育てていると身としてアリシアのような若い女性を手にかけるのは心が痛むが、逆らえる状況ではなかった。
容易に首を刈り取れる鋭い刃を持った大鎌を手にしたアリシアは真っ赤な瞳で八千羽を捉え、襲い掛かった。
真っすぐ力の入った迷いない一閃を両手をクロスさせて防ぎ、軽く弾いて今度は反撃をお見舞いした。
八千羽の長年鍛えられた剣技を防ぎ、簡単には捉えられないと察すると、さらに勢いを増して力を込めた。
激しく近距離で繰り広げられる剣戟。
互いに譲ることのない一騎打ちは休む間もなく続いていく。
「流石、自分達から牙を剥いて来るだけはあるわね。
本当に、私じゃなくて美留来が来るのが適任だったのに」
経験の差で確実にアリシア斬撃を防ぐつつも決め手を欠き、短期決戦に持ち込めない八千羽は愚痴を吐いた。
赤津探偵事務所の能力者の中では八千羽は普段からゴースト討伐を行うような役回りではない。長女であるため、早い頃から覚醒を果たしていたが、結婚して子どもを産み、ごく一般的な幸せを望んで一度はゴースト絡みとの関わりを断った過去がある。
そのため、十分な能力をあれど、次女の美留来よりは実力が劣っていることは事実で本人も自覚していることだった。
(無駄のない動き……まだ余裕があるのか、表情に余裕が見える。
闇雲に余計な魔力を使わず、加減して向かって来る辺り、やはり優秀な能力者か。簡単に倒せる相手ではない。しかし、我も負けるわけにはいかない)
大鎌を何度振り抜いても防がれてしまう現実に焦りを覚えるアリシア。
単純な攻撃では通用しない。それが分かり、より強く向かっていかなければならないことを感じ始めた。




