第十話「迫り来る狂騒」5
クリスマスが近い十二月の寒い時期に開かれるホリック・アルケミーによる本公演。
開催の日程が迫る中、赤津探偵事務所の所長を務める赤津羽佐奈にも、公演に関する無視できない重大な連絡が届いていた。
「所長。少々、無視できない案件が裏の連絡先に届いています。至急確認願えますか?」
スーツ姿の三浦友梨がいつもの無愛想な表情を浮かべ、所長席に座る羽佐奈に小声で話しかけた。
「ゴースト絡みかしら?」
週明けで書類の山に忙殺されていた羽佐奈は何とか苛立ちを隠し、また厄介事が増えたと思いつつ確認した。
友梨はアリスプロジェクトのメンバーでもあり普通とは違う心霊絡みの裏の仕事を主に担当している。羽佐奈がゴースト絡みの案件であることを危惧するのも当然だった。
「相手のメールアドレスは匿名性の高いものですので何とも言えませんが、本文を開くと相手にメールを開いたことを伝える通知が自動送信されると書かれています。所長が自ら確認するのがいいでしょう」
「分かったわ、友梨でも出来ることだから後の引継ぎをお願い。
私は書斎で確認作業に入るわ」
「了解よ、まぁ十中八九、面倒な依頼でしょうね」
業務連絡を続けた後に、不審なメールの内容に引っ掛かりを覚えていた友梨は残酷な本音の言葉を告げ、デスクに戻った。
「先に萎えること言わないでよ……」
悪態を付き、「もう若くないのよ」と重い腰を上げ、立ち上がる羽佐奈。
二十年以上、所長を続けていても偉ぶることなく、面倒事も引き受けてきた羽佐奈は断る口実でもないだろうかと思いつつ、自宅のある三階へと階段を上って行った。
一階は喫茶店、二階は事務所、三階と屋上は自宅になっている。
羽佐奈は早速、アイスミルクティーの入ったペットボトルを手に三階にある自分の書斎に入った。
本来の探偵事務所としての仕事以外、つまりはアリスプロジェクトに所属する超能力者としての依頼に関する業務は公には出来ないため、主に書斎で確認作業や連絡業務を行っている。
書斎の照明を付けてデスクに座り、マウスを操作し始めると同時に三つのモニターが点灯した。
慣れた手付きでそのままメールボックスを開いた羽佐奈は友梨の言葉通り、不審なメールを見つけるに至った。
「どいつもこいつも、なかなか私を引退させてはくれないわね……」
一人モニターに向かって愚痴を溢す今年で五十一歳になる羽佐奈。
14少女漂流記で語られている通り、2029年には舞原市を未曾有の異変から解放する活躍を発揮した羽佐奈。
それからも探偵事務所の経営を続けるため探偵業務をする傍ら、アリスプロジェクトの円滑な運用のための任務に限らず、街を守る為に尽力を続けてきた。
依頼は簡単なゴースト退治ばかりではない。
アリスプロジェクトからの研究協力や特別な依頼を任されることもある。
実績を出せば出すほど、厄介な依頼が舞い込んでくる。
純粋種の魔女として唯一のSランクの実力に該当されているだけでなく、後継者を育てるためにも実の子どもを中心に眷属を増やしてきた羽佐奈はさらに頼られる存在として、頭角を現しているのだった。




