プロローグ②「Rock This Town」3
戦いの中で戦況を見極める知枝だが、状況を分析すればするほど現実の厳しさを思い知られる。
自分と同程度の能力を持った魔法使いを三人、または四人相手にしなければならない。
あまりに困難な事態に思考を巡らせるのも嫌になるほどだった。
(でも、私がやらないと。浩二君を巻き込むわけにはいかないっ!)
すぐそばにいる浩二を守るため、もう一度、決意を新たにして活路を見出すため駆け出す知枝。
さらに自身から発現する魔力を高め、風を纏って速度を上げると、ボウガンを手にした光の矢を放つ三人目の少女に斬りかかった。
「リファ!! 油断すんじゃねぇっ!!」
ボウガンを握り立ち止まっている少女に対して、如意棒を手にした少女が叫ぶ。
腰まで伸びた黄金の髪に白い肌をした見目麗しい西洋人の少女はボウガンを手に恐怖に歪んだ表情を浮かべ瞳を閉じて、ボウガンでナイフを防ぎながらも木々の茂みまで吹き飛ばされた。
まだ隙の多い遠距離攻撃を主体とする相手から仕掛け戦力を奪う。
知枝の咄嗟の作戦がひとまず功を奏した形だった。
「|Rock This Town《ロック ディス タウン》!! 余所見してんじゃねぇ!! お前の相手はあたいだろっ!!」
横から猛然と迫る大剣。
知枝は真空の刃で応戦するがそれを躱しながら殺気立った瞳で得物を振り上げて襲ってくる。
「もう! しつこいってばっ!」
再びギリギリのところで振り下ろした大剣を躱す。
地面が崩れるほどの衝撃が辺りを襲う。
何とか距離を取って戦いたい知枝だったが、目の前の脅威に触発されて両手のナイフに力を込めて斬りかかった。
再びぶつかり合う刃と刃。
互いに魔力を纏い火花を散らしながら剣舞を繰り返す。
瞳と瞳が重なり合いながら、相対する二人の能力者は互いに全力を尽くし、互角の戦いを繰り広げた。
”はじけるまでロックしようぜ
倒れるまでロックしようぜ”
”この街を揺さぶろうぜ
天地ひっくり返るようにな”
見知った歌詞を口ずさむながら戦いに溺れていく大剣を手にした少女。
知枝は繰り返される剣戟の中で次なる一手を考える。
長期戦になり、魔力を消費し続ければ後に控える無傷の敵にトドメを刺されてしまう。
それを冷静に努める頭の中で思考した知枝はもう手段を選べない、迷ってはいられない状況であることを悟った。
――この膠着状態を切り抜けるためには。
衣服の中に隠れた緑色の宝石に願いを込める。
ネックレスの先端にあるグリーントルマリンの宝石がゆっくりと輝きを放ち始める。
手段を選べない状況の中で知枝は切り札を使うことを決断した。
知枝の切り札、それは上位種のゴーストを撃破した時に役立った宝石に込めた大魔力を駆使したマギカドライブの力だった。
「やらせはしません!!
忌むべき醜悪な魔女はここで祓います!!
光の矢よ! この想いに応えて!!」
汚れた衣服のまま再び立ち上がり、ボウガンを手に構える金髪碧眼の乙女。
身体から発する魔力は先程の比較にならないほど増大させている影響で、金髪の長い髪が煌びやかに靡いている。
遠距離攻撃を得意とする少女は決意を滲ませる鋭い瞳を眩く輝かせ、知枝を真っすぐに捉えた。
マギカドライブ発動を妨害するための先手。
それを察した知枝は風を巻き起こし遥か上空へと飛翔した。
両者の思惑が交錯する中、ほぼ同時に放たれる光の砲撃。
卓越した超能力で行使されたフォトンキネシスが空に向けて放たれるが知枝に命中することはなかった。
光の粒子が夜空の向こうでゆっくりと残像を残しながら消えていく。
そして、さらにその上空にはバリアジャケットを解除し、黒のワンピースを纏った知枝が空の上に浮かんでいる。
瞳を閉じ、心を無にして祈りを捧げるその胸元には眩いばかりの緑色の光を放つ宝石の姿があった。
「知っているぞ……その光が先生を地獄に引きずり込んだんだ!!」
大剣を強く握り、憎しみを込めて上空に向けて赤い瞳を向けて叫ぶ少女。
もう、誰にも止めることは出来ない。
知枝は地上にいる少女達の想いを知ることなく、宝石の力を開放した。
「祈りを力に……マギカドライブ展開!!」
数か月前を繰り返すように宝石に込められた魔力と接続し、その集積した魔力を解放する。
宝石から溢れてくる眩いばかりの光、その輝きは神聖な空気に包まれ、非現実的な情景を作り出していく。
―――発動してしまった以上、もう誰にも止めることのできない規格外の魔力の放流。
宝石に込められた魔力を解放して巻き起こす魔法使いのみが操ることのできる秘術、マギカドライブ。
分厚い積乱雲が公園を覆うように包んでいき、バリバリと雷鳴の音が響き渡る。
”大気を操る力”を自在に操るごく限られた者のみが行使できる大魔術。
それが、知枝の持っている魔法使いの力である。
「私達の日常を壊そうとするなら……誰であろうと許さない。
神の雷をその身に浴びなさいっ!!」
轟音を鳴らしながら避ける間も与えず、天空から降り注ぐ雷撃。
次々と降り注ぐ雷撃によって一気に地上は明るく照らされ、地獄と化す公園。
新たに出現した脅威に対抗するため、知枝は再び全力の一撃を放った。
それはもはや、止めようのない聖戦の始まりだった。