プロローグ②「Rock This Town」2
魔法使いとして戦う者のために作られた戦姫の兵装。
ゴースト討伐の際に苦戦した教訓を受け、それを補うための防御力の要。
それが知枝が新たに手に入れたバリアジャケットだ。
知枝の身体にフィットしたジャケットとスカートで構成されたバリアジャケットは白を基調に清廉とした美しさを引き立たせてくれる。
こうして完全な戦闘態勢に入った知枝は魔力によって作り出された光の矢を軽々と弾き飛ばした。
だが、初撃を防いだ知枝の下に青白い炎を宿した大剣を持った襲撃者が襲い掛かって来た。
(信じられないっ! この高さまで接近戦を仕掛けてくるのっ?!)
敵の速攻を避け、敵勢力の索敵を優先するため、五m以上高い位置まで上昇した知枝だったが、地上から恐るべき速さで敵が迫って来た。
「食らいなっ!! 舞原市の魔法使いっ!!」
目の前まで迫った同年代の威勢のいい少女の声が公園に響く。
危険を察知した知枝は反射的に手を前に出し、シールドを発動させるが、振りかぶって放たれた大剣の衝撃をまともに受け、地上に向かって吹き飛ばされた。
「くっ!!」
空を見上げたまま地面へと落下していく最中、背後から新たな魔力反応を感じ取った知枝は首を動かしその気配のする方角に視線を向けた。
するとそこには、木々の茂みから今この瞬間、顔を出し構えを取る姿勢から鉄の棒を手に飛びかかって来る、黄色い瞳を輝かせる少女の姿が見えた。
(地上にもう一人いたなんてっ!)
回避困難な状況に焦りの色を見せる知枝。
「伸びろぉーーー!!」
握った真っ赤な鉄の棒を手に力を込めた少女の声が響く。
その言葉の通り、鉄の棒は伸縮自在の武器として落下してくる知枝に襲い掛かった。
敵の凶器が如意棒であることを察知した知枝は瞬時に風を操作しながらギリギリの判断で攻撃を躱した。
一度、地上に降りたところで周囲の状況を確かめようとするが、次の攻撃が迫ることを察知した知枝は慣れた装備である二本のナイフを発現させて両手に握った。
(一体何者なの……考えている暇ないけど、この連係プレイといい、ゴーストの反応とは思えない。まさか、敵は魔法使いだと言うのっ?!)
僅かな時間に必死に思考を巡らせる知枝。
だが、当然のように休める隙を与えてくれる相手ではなかった。
「この連携を切り抜けるなんて、舞原市の魔法使い、出来るじゃねぇか!
血が滾ってきたぜ! あたいがやる! ここは任せなっ!!」
瞬足で迫る大剣を手にした少女。
狂気を感じる気味の悪い笑みを浮かべながら振りかぶった一撃を知枝は両手に握ったナイフをクロスさせ受け止めた。
互いの力が拮抗し合い、激しくぶつかり合う剣戟。
140cmに届かない小柄な体格の知枝に対して相手は170cmはある様子で明らかに知枝は体格差で負けていた。
修練を続けてきた風の力を器用を駆使し、俊敏な動きで何とか大剣に対抗する知枝。
赤いサングラスにピンク色の短髪をした派手な少女は魔法使い同士の戦いを楽しむように不敵な笑みを浮かべ、大剣を手に舞い踊る。
(何なんだこの化け物じみた動きは……全然ついていけねぇ……)
知枝に襲い掛かる新たな脅威に恐れおののき、冷や汗を掻き、足が震えそうになる浩二はカップアイスとココアを手にしたままベンチの後ろに下がりしゃがみ込んだ。
愛する知枝の助けになりたい。
そう思っていても、目を凝らしても彼らの動きについていけず、戦闘に介入すれば知枝の迷惑になってしまうことを自覚せざるおえなかった。
(くっ……こんな状況、どうすればいいんだよ……)
予期せぬ事態に懐に忍び込ませた魔銃を握るが、果たして誤射することなく知枝の力になれるのか、判断に迷う浩二だった。
(何て動き……一人相手するだけでも精一杯だ……。
それに一撃一撃が重い、攻撃速度を上げて行かないと消耗されちゃう)
青白いオーラを纏ったような大剣を切り抜けるため、何とか速度を上げて対応しようと試みる知枝。
しかし、その目論見は敵の連携によって脆くも崩れ去った。
横から伸びて高速で迫って来る如意棒を避け、何とか背後に下がって大剣の一閃も避けようとする知枝だったが、さらに何本もの光の矢の攻撃を受けた。
「きゃああぁあぁぁぁ!!」
身体の周囲に纏ったファイアウォールとバリアジャケットで何とか光の矢を受け止めたが、魔力を帯びた攻撃は予想以上に身体の痛みを伴った。
(まさか……敵は三人……いや、違う。
この公園全体を覆っているファイアウォールはこの三人の魔力とは性質が違う。
四人目がいるんだ。
どうする私……明らかに訓練された連携に長けた魔法使い四人を相手に切り抜けられるの?)
四方八方から襲い掛かって来る、それぞれ違う特徴を持った能力者。
一人一人の能力を把握できないままに対応するのは困難を極める。
知枝は魔力が消耗していく中、何とか突破口を切り開こうと思考を働かせる。
襲撃者たちは、彼らがチームを組んで行動している証か、視界に入っている三人はいずれも同じフード付きの黒いジャケットに身を包んでいた。