第三話「マッチ売りの錬金術師」2
昼休みが終わり、演劇クラスは二学期最初の部活会議の時を迎えた。
秋桜の咲く季節、十月後半には学園祭が二日間の日程で毎年盛大に行われる。
三年生にとっては最後の学園祭であるため、その想いは強く計画は一学期の頃から始まっていた。
眼鏡を掛けた委員長である羽月と長年連れ添った夫婦のように副委員長の浩二は教壇に立ち、最初にアンケート調査の発表を行うことにした。
学園祭のメインは演劇クラスだけあり、新作の舞台演劇を披露することだが、それ以外にも思い出作りのために出し物がしたいと前々から提案があり、アンケートを取ることになったのだ。
前回の部活会議で提案されたもの以外にも自由記述欄を設けており、浩二の読み上げを聞きながら羽月がホワイトボードにアンケート結果の集計を書き込んでいく流れになった。
「コンセプトカフェ11票、模擬店9票、お化け屋敷7票……」
票数の多い順から発表していき、羽月がホワイトボードに書き込んで行く。
既に票数において勝敗は決しているが、もしかしたら結論を覆す可能もあるかもしれないと、続けて自由記述欄に書かれていた提案を浩二が口頭で発表していく。
「自由記述欄、委員長とだるまさんが転んだ」
「はぁ?!」
「そんな反応しなくても……書いてることを読んだだけだぞ」
「委員長って名前伏せてるみたいに言ってるけど一人しかいないからねっ!?」
半ギレになりながら羽月が怒気を強めて浩二に向かって叫んだ。
ざわつく教室、常日頃冗談を飛ばすことがあるが、アンケート調査にまでそれが及んでいることは羽月にとってあまりに想定外な事だった。
自分が悪い訳でもないのに、怒られてしまった感覚のまま浩二は半ば怯えながら発表を続けることにした。
「えっと、委員長ワンマンライブ……委員長の占い屋敷……委員長と水着撮影会……委員長と」
「あああぁぁあぁストップーーー!! 誰よ自由記述欄で遊んでる人はっ!!
却下よ却下、全部不許可だからっ!!」
我慢の限界とばかりにペンを強く握り机を叩く羽月。
とんでもないアンケート結果を前に恥ずかしさを押し殺すため声を荒げた。
「大人気だな委員長」
「嬉しくないわよ全然……名乗り出てきなさいよ、こんなデタラメなことばかり書いて……浩二じゃないでしょうね?!」
「俺は委員長と球技大会って書いただけだぞ」
悪びれることなく言い放つ浩二。
何てノリの良いクラスなんだと思いながら羽月の反応を見るのみだった。
「やるわけないでしょそんなこと……滅茶苦茶しないで……」
「まぁまぁ……選択肢を選びながら自由記述欄にも書いてる奴がいるからこうなるわな」
何とか落ち着かせようと背中を撫でる浩二だったが、恥辱を受けた羽月はかつて付き合っていた頃の痴話喧嘩を思い出し、さらにヒートアップしていった。
「もう何でそんなことになってるのよ。集計はあなたに任せていたけど、こんな見世物にされるとは思わなかったわよ! 何で先に言ってくれないのよっ!」
「何でだろうな、俺も分からねぇわ……委員長人気が共有できたからいいんじゃね?」
「良くないわよ……どれも私が大変な目に遭うことばかりじゃない。面倒事押し付けたいだけでしょ……」
「それは一理あるかもしれねぇな」
「それしかないわよ、馬鹿」
実のところ、どれも楽しそうだと思ってしまった浩二は羽月を窘めるため、声を掛け続け落ち着かせようとする他なかった。
三年生になって初めて演劇クラスの一員となった羽月。
最初は委員長としてクラスを引っ張って行けるのか、自信のなかった羽月。
その羽月がすっかり愛される存在になっていることを印象付けるエピソードとなった。
その後、票数の一番多かったコンセプトカフェを演劇開演時間以外にすることに決まり、力尽きた羽月の代わりに浩二が仕切ってコンセプトカフェの種類を話し合うことになった。
執事喫茶やメイドカフェと異なり、よりマニアックなテーマやコンセプトを拾い上げ、開かれることの多いコンセプトカフェ。
その面白さの本質は非日常体験を楽しむことにあると言っても刺し違えないだろう。
女医やナースに扮して接客する病院ものや少し古めかしさを感じさせるアンドロイドに扮して接客するカフェ、さらに戦隊ヒーローや忍者なども出て来てカオスさが増していく中、一番やりやすい印象があり、好評だったのはアニマル系のコンカフェであった。
これは耳や尻尾、手袋を着けて動物になりきりながら接客をするというものだが、動物好きにはたまらない内容になっているため、癒しを求めて訪れてくれるのではと、様々なアイディアで溢れた。
浩二は意外にコンカフェに行ったことがある生徒が多いことに驚きつつ、定番どころから奇抜なコンカフェまで知ることになった。
「浩二、このことばっかり話していたら時間が終わっちゃうわよ。
本題の方に行きましょ、せっかく作ったんだから」
好き放題に弄られ精神的打撃を受けていた羽月がようやく蘇り、今回の舞台演劇の話しに移すことを提案した。
「あぁそうだな……仮脚本をみんなに配らねぇと」
コンセプトカフェの話しだけでこのまま今回の部活会議を終わってしまってはならないと、羽月の言葉で浩二は気付かされ、用意してきた仮脚本を取り出した。
今回のために準備してきた仮脚本が演劇クラスの生徒達に配られる。
五月に開催された合同演劇発表会での”震災のピアニスト”同様、監督は羽月、脚本は浩二が担当することになり、この数日は特に集中的に二人で話し合いながら仮脚本の作成に取り組んできた。
「今回は完全オリジナルって言っていいのかしら?」
「そうかもな、一部タイトル被りにはなるけど、マッチ売りの少女と似て非なるものだからな」
苦労の甲斐あって満足いくものが出来た二人は自信を覗かせながら、仮脚本に目を通し始めるクラスメイトを見ながら会話を交わした。
三年間の集大成として有終の美を飾るために今回学園祭で行う舞台演劇のタイトルは『マッチ売りの錬金術師』、浩二が一から考えて作り上げたオリジナル脚本である。




