第十七話「そして、私達は進化していく……」4
初めて魔女の力を解放する当日を迎えた私は午前中からプリミエールの車に乗り込み、目的地まで山中を走っていた。
通り過ぎていく景色を助手席から眺め続ける。
一学期の頃から今日まで、万全を期して準備を進めて来た。
14少女漂流記を視聴してもらい、ゴーストや能力者についても知ってもらった。
これ以上、先延ばしにするわけにも行かない。
この先、一筋縄ではいかないことは分かりつつも、私は覚悟を決めていた。
人数が多いため、一台はレンタカーを借りて八千羽さんが運転をしてくれている。普段、子どもの送迎は自転車を使っているそうで車の運転は苦手とのことだが、安定した運転で後ろから付いて来てくれていた。
駐車場に到着し、車から降りると滝が近いこともあって早速マイナスイオンを感じる心地良い空気を吸い込んで味わった。
「ちょっと人が多いけど、遠足みたいでこういうお出掛けもいいわね!」
「反応がまるで中学生なのよ……舞さんってば……」
後方から舞と羽月さんの会話が聞こえた。
クラスメイトではないとはいえ、面識のある二人は同じ車で親睦を深められたようだ。
また、同じ車に乗っていた千歳さんは麦わら帽子を被り白いワンピースを着ていて、可憐な女子モード全開の雰囲気を醸し出していた。
フィギュア選手だけあって誰もが羨む綺麗な美脚をしていて、スカートから覗かせる太ももを不覚にも視界に入れてしまい、ドキドキさせられてしまう。
舞が動きやすいボーイッシュな格好をしていて、羽月さんは日焼けしないよう長袖にしていて、ロングスカートを履いていることもあって、余計に露出多めの女子高生のイメージを感じさせられるのだった。
三人の姿につい魅入ってしまうと八千羽さんと場違いな雰囲気を纏うサングラスを掛けた研二君が退屈そうに立ち往生していた。
「……それじゃあ、皆さん行きますか」
八千羽さんの車に乗っていた羽月さん、それに舞と千歳さん。
プリミエールの車に乗っていた私と研二君。
総勢七人でここまでやってきた中、私は全員に向けて声を掛けた。
相変わらずの愛想のなさで先を歩こうとする研二君。
可憐な私服姿の女性陣だけを見ると旅行に来たような身なりだが、ここには旅行でやってきたわけではない。
お遊び気分ではいられないだけに私は先頭を歩こうと早足になって研二君の隣を歩いた。
入場券を買い、地元では有名な観光スポットである観瀑施設、井野原の滝に入っていく。ここにいるメンバーの中では地元民ではない八千羽さんと研二君以外は来たことがあるみたいで驚く様子もなく付いて来てくれた。
ライトアップされた長いトンネルの中を入っていく。
このカラフルなLED照明があるおかげで滝に辿り着くまでの道中の間、ワクワク感を高ぶらせてくれる。
薄暗いトンネルの中だったら怖くなったり、鬱屈した気持ちになってしまいそうなだけにこれは良い試みに違いない。
長い直線が続く緩やかな坂をひらすら登り続けていると、次第に叩きつけるような渓声が大きくなって響いて来る。第一観瀑台に辿り着くと高さ百メートル以上を誇る雄大な滝の景色が目の前に姿を現した。
春夏秋冬、鮮やかな季節の色彩を見せる名瀑として知られる井野原の滝。
特に冬の厳しい寒さが続くと、滝全体が真っ白に凍結した氷瀑を見ることが出来ることも魅力の一つとされている。
今の私は観瀑台から広がる壮大な滝の景観にゆっくり見惚れている余裕もないけれど、流れる渓声を聞いていると心が洗われるより先に、感情が高ぶって来るようだった。
ここから準備をしてきた今回の作戦がいよいよ始まる。
私は険しい表情を浮かべ、後ろを振り向いて仲間達に向けて口を開いた。
「それでは、私達はこの先に向かい儀式を始めます。お二人はここで待機していてください」
エレベーターを昇り、覚醒の儀式を行う第二観瀑台までは一本道になっている。
この先が厄災以後から一般観光客が入ることを許されない市の管理下にある以上、妨害者が獣道を通って別ルートからわざわざ危険を冒して侵入を試みる可能性は低い。
私は護衛を頼んだ研二君と八千羽さんにはここで警戒して待っていてもらう事にした。
「構わん、これだけ長い準備期間を費やしたのなら今更迷う必要はないだろう。さっさと覚悟を決めて行ってこい」
「ここはあたし達に任せて五人で仲良く行ってらっしゃい。
運命は自分達で切り開いてこそでしょ」
二人の言葉に頷き、エレベーターへと向かっていく。
ここから先は振り返ることはない。そう決心して五人でエレベーターに乗り込んだ。