第85話 李左車の計略
時は少し戻り、荊州城攻略前の昼。
宋軍兵団はけもの道を2列に歩いて進軍した。
周りは鬱蒼とした森で、そこを抜けると道の両側を崖が切り立ったところに出る。
どちらにしてもここを進むしかない宋軍は、同じく2列でここを抜ける。
先頭の部隊が渓谷を抜けようとしたところで、突然崖から岩が落ちてくる。
中央にあった補給用の荷車と弓兵たちが、次々と下敷きになった。
落盤が終わると、次は矢の雨と炎の魔法が降り注ぐ。
宋軍は無抵抗のまま次々と倒れていく。
「ハッハッハッ!趙の時に出来なかった策が、まさかこの世界でやれるとはのぅ」
高笑いをする韓信の軍師・李左車。
「おのれ!イワイの奴らに計られた!」
豹の姿である百将軍が崖を駆け上ろうとすると、正面の武将に呼び止められる。
「ほう!宋国の武将は正面に敵が現れると崖の上に逃げるのが常識らしいな!」
「なんだと!」
正面を向くと、がっちりとした狐の大男がクイの上に跨っていた。
「我が名は韓信様の家臣、樊噲である!」
「宋軍指揮官の仕事が逃げる事でないのであれば、この俺と戦え!」
「なにを!森に棲んでる狐風情の分際で!」
「この官軍の百勝将が相手をしてやるからありがたいと思え!」
樊噲の安い挑発に百勝将は受けて立った。
後方では天目将が混乱した部隊の収拾に躍起する。
そんな中、後ろから顔に入れ墨がある狐が斧槍を持って近づいてきた。
「ほう、この部隊は豹の将軍が束ねているのか?」
天目将は振り返り、顔を見てギョッとする。
「誰だ、貴様!」
「俺の名か?」
「俺の名は九江王・英布!」
「皆には顔の入れ墨にちなんで黥布と呼ばれてる」
さてと、と黥布は首を鳴らしながら天目将に近づく。
「抵抗してもいいぞ?どうせ捕まえるから」
この言葉に天目将は怒りを露にする。
「ほざけ!この罪人(顔の入れ墨は罪人を意味する)が!」
天目将は槍を持ち黥布に突撃を行った。
奇襲後1時間も経つと戦場は大分静かになる。
下に降りた李左車のもとに、樊噲と黥布は縄で縛った将軍を連れてきた。
「お二人ともお見事ですな!」
その言葉に二人は見合って笑いだす。
「こう言っちゃなんだが、あまり大したことなかったな!」
「やはり人型まで進化しないと本領発揮できないようだ!」
なるほど、なるほどと、李左車は頷く。
「では樊噲殿は、連れてきた1000の兵と軍事物資をもって淮南の街へ進んでください」
「黥布殿と私は、残りの兵500とこの二人と捕虜を連れて、このまま荊州城へと向かいます」
李左車は指示を出すと、500の兵を連れてそのまま荊州城へと向かった。




