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第401話 トモエvsロドリゲス

一方、巴とロドリゲスは、目にも止まらぬ攻防を繰り広げていた。


「いくぞ、こらぁぁぁ!!」


巴は右足で大地を蹴りつけると、その反動で一気に跳躍すると、ロドリゲスの目では追えないほどの速度で、飛び蹴りを繰り出した。


{!}


ロドリゲスは咄嗟に上半身を九十度に仰け反らせ、その蹴りを紙一重で回避する。

巴の体は、唸る風を伴ってロドリゲスの頭上を高速で通り過ぎた。


{もらったぁぁぁぁ!!}


ロドリゲスはその体勢のまま、すかさず指先を向け、フィンガー弾を撃とうとする。


――だが。


視線の先に、巴の姿はなかった。


「バーロー! 上だ!!」


{なにぃぃぃ?!}


慌てて声の方へ視線を向けたロドリゲス。


その頭上では、宙返りして速度を殺した巴が、すでに攻撃態勢へと入っていた。

そして今、顔面めがけて拳が真っすぐに振り下ろされる。


「逝けやオラぁぁぁ!!」


{むぅぅぅ!!}


完全に虚を突かれたロドリゲスの顔面へ、巴の渾身の右ストレートが叩き込まれる――


そう思われた、その刹那。


ロドリゲスの眼帯に覆われた右目が、突如として赤く輝いた。


それと同時に、そこから放たれた赤い光線が、目の前に迫る巴の拳を貫き――

その手首を吹き飛ばした。


だが。


巴は攻撃をやめない。


拳を失った腕を、そのまま振り抜き――

勢いのまま、ロドリゲスの顔面を地面へと叩きつけた。


{ぐぅぅぅ!!}


地面にめり込まんばかりの一撃。

衝撃が走り、全身に稲妻のようなエフェクトが迸る。


その瞬間――

ロドリゲスは本能的に危機を察知した。


腹部装甲がガコン、と音を立てて開くと、内部から現れたガトリング砲が、至近距離で火を噴いた。


「チッ!」


巴は咄嗟に体を捻り、弾丸の奔流を紙一重で躱す。


そのまま左手を地面につき、体を支点にして回転し、鋭い蹴りでロドリゲスの背中を蹴り上げた。


「跳べや、おらぁぁぁ!!」


{むぅぅぅ!!}


左側から背中を蹴り上げられたロドリゲスの体は、右方向へ低く宙を舞い、そのまま地面へ転がり落ちる――


……かと思われたが。


ロドリゲスは右手を地面に突き立て、衝撃を殺しながら体を跳ね上げる。

そして、そのまま斜め上へ跳躍すると、腹部のガトリング砲の照準を再び巴へと向けた。


{くたばれぃぃぃ!}

{フォイヤー! フォイヤぁぁぁ!!}


腹部に仕込まれたガトリング砲が再び唸りを上げる。

銃口から吐き出された火花と弾丸の雨が、再び巴へと襲いかかった。


この時、巴は先ほどの着地の時点で、すでに体を大きく捻りきっており、今の体勢からでは、すぐに動くことができない。


しかし――


その姿勢こそが、巴の次の技の構えだった。


「通・背・拳ンンン!!」


巴は体の捻りを一気に解き放ち、地面に着いた左手へ一気に魔力を叩き込む。


次の瞬間――


爆発的に放出された反動が、巴の体を上空へと弾き飛ばす。


巴はその勢いを利用して宙へと跳び上がり、見事、空中で体勢を整えることに成功した。


一方、ロドリゲスもまた後方へ飛ばされながら、足裏のロケット噴射で逆噴射をかけ、そのまま地面へと着地した。


斜めに構えて地上から見上げるロドリゲスと、上空から見下ろす巴。


見た目は互角の攻防――

いや、片手を失った巴の方が、圧倒的に不利に見える。


そんな痛々しい巴の姿を見たロドリゲスは、声高々に呼びかけた。


{おい貴様ぁぁぁ! 手を失くしても悲鳴ひとつ上げぬ、その胆力は褒めてやるぅぅぅ!!}

{だがしかしぃぃぃ! その状態で戦闘を続けるのは不可能ぅぅぅ!!}

{降伏するかぁぁぁ! 戦って死ぬかぁぁぁ! どちらか選べぇぇぇいィィィィ!!}


胸を張り、片手を突き出して、堂々と降伏勧告を突きつけるロドリゲス。


――だが。


実のところ、ロドリゲス自身もまた、かなり苦しい状況に追い込まれていた。


ここまでロドリゲスは、持てる武装のほとんどを投入している。


ガトリング砲。

ロケット兵装。

各種爆発兵器。


それでも――


半獣化した巴に、決定打を与えることができていない。


さらに最悪なことに、戦闘によるダメージによって、機械の体であるロドリゲスの各所に不具合が発生していた。


服の下にある装甲は、すでにあちこちにひび割れが走っている。

裂けた隙間からは内部の駆動線がむき出しになり、そこを蒼白い光と火花が走っていた。


そして――


ロドリゲスの脳内に、無機質な警告文が次々と表示される。


――出力安定率、低下。

――姿勢制御装置損傷。補正中。

――動力系統異常。四肢の駆動速度、大幅低下。


警告は止まらない。


――戦闘継続による機体崩壊確率、上昇。

――推奨行動:戦闘離脱。


ロドリゲスの思考回路は、鳴り響くアラームで埋め尽くされていた。


(おのれぇぇぇぃ……!)

(あの女ぁぁぁ!)


(千年帝国のぉぉ科学力の粋を集めたぁぁぁ!)

(このぉぉ私がぁぁぁ!)


(全力で攻撃したにも拘らずぅぅ……倒すことが出来ぬとわぁぁぁぁ!!)


だが――


(しかぁぁぁし! 奴も決して無傷ではなぁぁぁい!!)


ロドリゲスの視線は、静かに巴へと向けられる。


上空からこちらを見下ろす巴。

その右腕の断面からは、いまだ血が滴り落ちていた。


(これで奴が降伏を飲むか、逃げればよぉぉぉし!!)


(しかぁぁぁし! それが叶わぬなら――)


(こちらも最後の手段に出るまでだぁぁぁ!!)


秘策を使う覚悟を決め、返答を待つロドリゲス。

だが――当の巴は、その降伏勧告など意に介した様子もなく、失った右腕の断面へ魔力を集め始めていた。


「おぉぉぉぉぉ……」


巴の右腕を、濃密な魔力が覆っていく。

やがて出血はぴたりと止まり、力を込めた腕には血管が浮き上がった。


(ぬぅぅ! こいつ……いったい何をする気なのだ!!)


訝しげに見上げるロドリゲス。

しかし巴は、その視線などまるで気にも留めず、ただ失った右手の断面を睨み続けていた。


そして――


「はぁぁぁぁぁ――っ!!」


巴は大きく息を吐き出すと同時に目を見開き、右腕の傷口へ魔力を一気に集中させた。


(!!)


その凄まじい気迫に、ロドリゲスは思わず一歩たじろぐ。


何が起きるのか――。


固唾を飲んで見守るロドリゲスにとって、そのわずかな時間は、まるで永遠のように長く感じられた。


だが。


何も起こらない。


しばらくの沈黙のあと――


巴はふっと力を抜き、止血のための魔力だけを残して集中を解いた。


「……チッ」


小さく舌打ちし、ぼそりと呟く。


(やっぱ修行不足か……俺には、手を生やすのはまだ無理だったみてぇだ)


(な、なにぃぃぃぃ!? 手を生やすだとぉぉぉ?!)


上空十メートルほどの位置で漏れたその呟きを、ロドリゲスは聞き逃さなかった。


驚愕の声が、ロドリゲスの頭の中でに響く。


(こ、こいつら……まさか……修練すれば失った四肢すら再生できるというのかぁぁぁ!!)


ロドリゲスが知る限り、人型の生物が失った四肢を取り戻す方法はただ一つ。


――超希少な魔法薬エリクサー


それを使えば、欠損した手足すら再生できる。


だが、それ以外の方法での復元など、人間や亜人はおろか――

龍種や魔族、さらには神族ですら不可能とされている。


ちなみに巴のこの行動は、神から送られた聖典の一つに描かれていた、とある異星人の真似をしただけであり、手が生えてこないのは当然の結果であった。


結局、失った手が元通りになることはなかった。


巴は空中からゆっくりと降下し、動揺を必死に押し隠しているロドリゲスの数メートル先へと降り立つ。


そして――


白い歯を見せ、にやりと笑った。


「……おい、おっさん。テメェ、なかなか面白れぇじゃねぇか!」


{なんだとぉぉぉ?!}


突然の言葉に、ロドリゲスは目を見開く。


咄嗟に彼は、先ほど自分が巴へ向けて行った降伏勧告に対し、怒りを露わにしたのだと判断した。


{きさまぁぁぁ!そのような状況で戦いを挑むとはぁぁ余程死にたいようだなぁぁぁ!!}


「あぁ?テメェ、何を言ってやがんだぁ?」


凄むロドリゲスに、キョトンとする巴。


それもそのはず、ロドリゲスが状況と虚勢を張って行った降伏勧告を、考え事をしていた巴は全く聞いていなかったのである。


「あぁ、そうか!」


「俺がこんな手になってるから、勝ったと思い込んでるんだな?」


そう言うと、巴は怪我をした右腕に軽く力を込める。


次の瞬間――


怪我をした右腕が、体の中へ完全に引っ込む。


そしてさらに――


そこから、まるで植物の芽が伸びるかのように、新しい腕が生え出してきた。


{な、なにぃぃぃぃ??!!}


あまりの光景に、思わず大声で叫ぶロドリゲス。


{き、きさまぁぁ!て、手を再生したのかぁぁぁ?!}


「あぁん? 見りゃわかんだろ! ボケェ!」


その光景を目の当たりにしたロドリゲスは、絶対的優位が音を立てて崩れていくのを感じていた。


――だが、実のところ。


巴たち昆虫族にとって、腕が四本ある姿こそが本来の姿である。

(ちなみに甚五郎は蜘蛛なので六本ある)


見た目が悪いという理由から、変身後であっても普段は二本を体内に引っ込めているだけに過ぎない。


つまり今回の巴の「再生」は、単に隠していたもう一本の腕を出しただけのことだった。


……もっとも。


そんな事情をロドリゲスが知るはずもなく、彼の目には――

**「失った手が再生した」**ようにしか見えていなかった。


そしてロドリゲスは、生まれて初めて狼狽した。


(まさか……そんな事はありえぇぇん!!)

(我が千年帝国のぉぉぉ!科学力を結集させたぁぁ!このぉぉ私がぁぁぁ!!)

(奴より弱い事などぉ!あってはならんのだぁぁぁぁ!!)


信じがたい現実を突きつけられたロドリゲスの頭の中では、怒りと、誇りをへし折られた心が、ほとんど怨嗟にも似た悲鳴を上げていた。


そんな茫然自失となったロドリゲスを見下ろしながら、巴はにやりと笑う。


「そんな事よりよぉ、おっさん!」


「俺はお前の事が気に入ったぜ!」


巴は新しく生えた右手を軽く振りながら、まるで世間話でもするかのような口調で言い放った。


「つかさぁ、お前俺の部下になれや!!」


{な、なんだとぉぉぉ?!}


つい先ほどまで、生死を賭けて戦っていた相手からの突然の勧誘に、ロドリゲスは思わず大声を張り上げた。


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