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第388話 難局

15時。


マレンゴ北方の町・カステルチェリオは、すでに 街の一部を残して敵軍に占拠 されていた。

残された二階建ての建物では、ランヌが率いる少数の獣人精鋭隊が、瓦礫の陰に潜みながら必死に抵抗を続ける。


一方、レシア率いる本隊4,000は、ヴィクトール軍右翼と足並みを揃え、

戦線を崩さないよう慎重に後退しながら戦闘を継続 している。


〈あ〜あ……生き残りも、ここにいる俺たちだけになっちまったな〉


瓦礫に背を預け、黒豹族の兵が苦笑混じりに呟く。

街中でゲリラ戦を繰り返してきたランヌの精鋭隊五百名も、いまでは 十名ほど にまで減っていた。


〈おい、お前、まだ魔弾どれくらい残ってる?〉

〈そうだな……あと十人撃ち殺したら、俺も“射手ガンナー”から“戦士ウォリアー”にジョブチェンジだ!〉

〈まだガンナーやってたのか? 俺はもう前の路地で剣士に転職済みだぞ!〉


〈〈〈がはははは!!〉〉〉


硝煙が漂う崩れた家屋の中、血と泥にまみれた獣人たちは、

死と隣り合わせであるにもかかわらず、いつも通りの調子で笑い合っていた。


〈ほらよ、俺の弾、少し分けてやる!〉

〈ありがとよ、兄弟!〉


その間にも、外ではクラシック兵たちが彼らの潜む建物へ向けて、無数の銃弾を浴びせ続けていた。

レンガ造りの壁はあちこち抉れ、木片が雨のように飛び散る。


ランヌは壁際に身を寄せながら、瓦礫の隙間から外の様子を伺う。


〈……チッ。楽隊の奴ら、厄介な連中まで呼びやがったな〉


舌打ちしたランヌの視線の先には――


灰色の軍服、異様に光沢のある黒いシュタールヘルム(鉄兜)。

そして魔族特有の黒い血管が浮き出た青い肌に、禍々しい魔力を帯びた銃。


魔族歩兵たちが、規律正しい足並みで前進しながら、ランヌたちの潜む建物へ向けて容赦なく銃撃を加えていた。


その後方では、黒い鉄の塊に車輪をつけた得体の知れぬ兵器が、

戦線を張るレシア隊の方角へ向けて、キュラキュラと音を立てながら町を抜けていく。


〈チッ……あれだけは、先に行かせたくないんだがな〉

ランヌは歯噛みし、窓の陰で低く呟いた。


生き残りの一人、マルク軍曹が小声で問いかける。


〈あれ、やっぱり魔族ですよね?やはり 千年帝国の奴らでしょうか?〉

〈……恐らくな。問題は“ヤツらの武器”だ〉


ランヌは壁の穴から差し込む光を横目に、苦々しく続けた。


〈こっちの火器とは比べ物にならねぇ……〉


事実、差は歴然だった。


トレビアンを含む各国の歩兵銃は――

射程およそ300m、単発式、1発ごとに装填が必要。


それに対し魔族兵の銃は、

射程600m、5発入る弾倉式のボルトアクション式小銃。


トレビアン最新鋭とされる重機関銃は射程1,000m。

それに対し、魔族軍の機関銃は射程2,500m超。


更に魔族兵は、小型の時限式爆弾(手榴弾)を装備しており、建物に隠れていたランヌ軍の兵を、次々と爆破していったのである。


ちなみに、トレビアンの装備は決して旧式ではなく、各国が使っている最新式と同じものであった。


そして今、魔族兵たちの砲撃が、付近に残る建物を次々と破壊していく。


〈こいつら……まずいっすよ、将軍。

 このまま砲撃を喰らい続けたら、この廃墟じゃひとたまりもねぇっす!〉


別の隊員も、泥だらけの顔でランヌに訴える。


〈特に……あの黒い鉄の塊は最悪です!

 魔弾どころか、将軍の斬撃でも傷一つ付かねぇ!!〉


街角をゆっくり旋回する黒い鉄の塊――装甲車(戦車)。


トレビアン兵が浴びせる銃弾は、高い金属音と共に弾かれる。


ランヌが振るったサーベルの一撃でさえ、黒い装甲にはまるで相手にされなかった。


(……くそ。どうにか止める手はねぇのか……!?)


自信の魔力をほぼ使い果たしたランヌは、焦りを押し殺し、わずかな突破口を必死に探す。

だが、そのとき――。


彼の獣人としての本能が、鋭い警告を鳴らした。


(……ヤバイ、来る!!)


〈――全員、逃げ――〉


言い切るより早く、無数の爆音が建物全体を揺るがした。


砲弾が直撃した!建物内にいた者達は、一瞬で理解する。


轟音。

閃光。

瓦礫の雨。


二階部分が崩落し、ランヌたちがいた一階は――


二階の瓦礫ごと完全に押し潰された……。


ランヌたちが潜んでいた建物が崩れ落ち、土煙を上げる。


その光景を――

灰色の軍服に身を包んだ将校・ロドリゲス将軍は、指揮戦車・LT-35の砲塔から上半身を乗り出し、両手に持つ鞭をしならせる。


{フハハハハハーッ!!見たか虫けら共ォォォ!!

 この結果こそ “千年帝国軍の圧倒的力” の証明ッ!!

 反徒どもは塵と化したッ!!実にッ!実に愉快だッ!!}


左目に黒い眼帯。

口元には整えられた髭。

長身の男――ロドリゲス将軍のもとに、副官・オーヤビンが駆け寄る。


{ロ、ロドリゲス将軍!ご報告だびん!}

オーヤビンは緊張のあまり背筋を伸ばし、左腕を突き上げる。


{申せェェイ!!戦果を聞く準備は万端だッ!!

 我が耳は勝利の報告を欲しているッ!!}


{はっ!カステルチェリオは完全制圧!

 敵守備兵およそ五百、殲滅いたしましただびん!}


ロドリゲスは満足げに目を細め、鼻で笑う。


{五百?フンッ、小粒な連中だ!

 だがよくやったオーヤビン!

 我が軍の兵器と規律が “無敵” であることが改めて証明されたなッ!!

 千年帝国の軍事力は世界一ィィィィッ!!}


鞭を高く掲げ、ロドリゲスは咆哮する。


〈全軍前進せよッ!!

 この勢いのままトレビアンを粉砕し、

 ナポレオンの首を我が手に収めるのだァァァッ!!〉


{ヤヴォールだびん!!}

オーヤビンは震えながら敬礼し、全軍へ号令を飛ばした。


ロドリゲス率いる戦車大隊は、次の目標・レシアの部隊へ向けて前進を開始した。



ロドリゲス率いる戦車大隊は、次の目標・レシアの部隊へ向けて前進を開始した。


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