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第382話 ペドラボナ農場の戦闘

場面は変わり、アレッサンドリアから南東5㎞にある村『マレンゴ』。


西側には小川が流れ、周囲には藪とぶどう畑、そして低い丘が点在するこの村は、アレッサンドリアとトルトナを結ぶ幹線道路の要地であり、現在はヴィクトール軍が陣を敷く前線基地となっていた。


〈あぁん? 楽隊共が街から“大群”で攻めて出ただと?!〉


農家を改造した司令部の一室。


副官たちと朝食前だった『クロード・ヴィクトール=ペラン』は、伝令兵の報告を聞き終えると、眉間に深い皺を寄せた。


〈まったく厄介な朝だな……〉


パンを皿に戻し、立ち上がると隣に控えていた人族の中年参謀・ヴォルクに目配せする。


〈ヴォルク、地図を出せ〉


〈はっ!〉


二人は卓上に地図を広げ、急ぎ現状の分析に取りかかる。


〈将軍、伝令の報告が事実であれば――ペドラボナ農場を守るガルダンヌ軍2,000では、到底撃退は難しいでしょう〉


地図上の赤い線を指し示しながら進言するヴォルク。


ヴィクトールは眉間に皺を寄せ、小さく頷いた。


〈……ならば、ここマレンゴに防衛線を引く!〉


〈正面を流れるフォンタノーネ川を渡河する敵を迎え撃つのだ!〉


フォンタノーネ川――。


普段は幅10メートル、膝下ほどの穏やかな小川にすぎない。


だが、この日は違った。


夜通し降り続いた豪雨により水位は跳ね上がり、濁流は大人の胸の高さにまで達していた。


〈敵が大砲を運ぶにも、この細い橋(幅3メートル)を通らねばなりません。ここを塞げば、奴らは足を止めます〉


ヴォルクの提案に、ヴィクトールは大きく頷いた。


〈……うむ!参謀の意見はもっともだ!〉


〈後方の歩兵隊を集結させ、この川を防衛線とする!特にこの橋だ――兵力を集中し、渡河を阻止せよ!〉


〈〈〈ビヤン・ルスュ!!〉〉〉


副官たちは一斉に敬礼し、任務遂行のため部屋を飛び出していった。


〈伝令! 今の内容を皇帝陛下へ伝達せよ!〉


〈ビヤン・ルスュ!〉


伝令兵は敬礼すると、馬に飛び乗り、雨の中をトルトナの本陣へと駆け出した。


〈ヴォルク、この建物の三階から全体を見渡す。そこで指揮を執る!〉


〈ビヤン・ルスュ!〉


敬礼する参謀に背を向け、ヴィクトールは階段を上りながら舌打ちする。


(ちっ……せっかくの朝食が台無しじゃねぇか……!)


不機嫌そうな表情を浮かべつつ、単眼鏡を構え、ペドラボナ農場の方角を確認した。


そのペドラボナ――。


泥濘に沈む畑地では、ガルダンヌ准将率いる歩兵師団4,000が、迫り来る敵軍の進撃を阻むべく、必死の防衛線を築いていた。


やがて、霧が風に流されるように晴れていく。


その向こう――視界の先に、クラシック軍の大軍が現れた。


鼓笛隊のマーチに合わせ、整然とした横隊を組み、ゆっくりと、しかし確実に前進してくる。


〈……どういうことだ?〉


〈情報では、アレッサンドリアの兵数は“カステッジョ”で4,000以上削ったはずだ!〉


ガルダンヌは単眼鏡を構えたまま、目を疑った。


その数は少なく見積もっても10,000を優に超えている。


実際、先のカステッジョ制圧戦では、クラシック軍は約2,500の死傷者と1,500の捕虜を出し、

残存兵力はせいぜい1万3,000と見積もられていた。


アレッサンドリアの守備を考えると、戦闘に配備できるのはせいぜい10,000弱のはず。


だが――目の前の現実はそれを嘲笑うかのようであった。


〈……増援が来ていたというのか……?〉


ガルダンヌはすぐに判断を下す。


〈全隊、射撃体勢ッ! 左右の茂みと農場の壁を利用しろ!〉


〈〈〈ビヤン・ルスュ!!!〉〉〉


命令を受けた兵たちは、泥に足を取られながらも銃を構えた。


雨に濡れた木の銃床が、わずかにきしむ。


次の瞬間、ガルダンヌが合図の口笛を鳴らす。


〈フゥッ!!〉


{フォイヤーーーッ!!!}


凄まじい銃声が、両軍から鳴り響いた。


轟音が湿った空気を震わせ、弾丸が魔法障壁を突き破り、兵の身体を貫いていく。


川辺の泥が弾け、悲鳴と怒号が入り混じる。


数では圧倒的不利のガルダンヌ師団――だが、彼らには地の利があった。


農場の建物、道路脇の茂み。


遮蔽物に隠れながら撃つトレビアン兵と、ぬかるみにはまり身動きの取れぬクラシック兵


泥の飛沫と硝煙の中、銃撃の応酬が続く。


互いの魔法障壁が幾度も砕け散り、弾丸が雨のように降り注ぐ。


しかし――。


暫くすると、クラシック軍の後方に新たな影が現れる。


巨大な四足恐竜に曳かれた砲車が次々と姿を現したのだ。


〈まさか……魔導砲部隊だと!?〉


〈距離を取れっ!早く!!〉


兵たちの悲鳴が上がるより早く、砲兵指揮官の怒号が響いた。


{フォイアー・フライ!(砲撃開始!)}


轟音。


空気を裂くような魔力の唸りが続き、前線に並んだ20門の砲が一斉に火を吹く。


青白い魔砲弾が、炎の尾を引きながら飛翔し、トレビアン兵が隠れていた木々や建物を――まとめて吹き飛ばした。


地面が揺れ、爆風が兵士たちを宙に舞い上げる。


炸裂の閃光が一瞬だけ霧を晴らし、次の瞬間には再び土煙が視界を覆った。


※欧州の戦いでは、両軍の大隊には数名の魔導士が配属されている。

彼らは治療や防御支援のほか、隊全体を覆う障壁を展開し、物理弾や魔法を防ぐ。

そのため、障壁を中和する特殊弾――『魔弾』『魔砲弾』が、戦場の主流兵器となっていた。


〈全軍、200歩後退! ペドラボナ農場は放棄する!!〉


銃の射程外から一方的に撃ち込まれ、抵抗の余地を失ったガルダンヌ准将は撤退を命じた。


土砂と硝煙にまみれた兵たちは、泥を蹴立てながらじりじりと後退していく。


〈撃っては退け!距離を取れ!!〉


〈援護射撃、遅れるな!〉


後退と反撃を繰り返すうちに、兵たちはマレンゴ手前――フォンタノーネ川の岸辺へと辿り着いた。


川の対岸からそれを見ていたヴィクトール軍は、ガルダンヌ師団の損耗と混乱を察知し、

ラッパを鳴らして撤退と再編成の合図を送る。


〈ここまでだ!全員、反撃をやめろ! 味方ラインの後方まで退却する!!〉


〈〈〈ビアン・ルスュ!!!〉〉〉


味方の援護射撃を受けながら、弾薬の尽きかけたガルダンヌ師団は次々と橋を渡り、後方で補給と立て直しを図るべく退却していった――。


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