第174話 好漢たち、飛将と相まみえるのこと
一方、魯智深と武松は馬に跨った男を攻め続けるも、苦戦を強いられていた。
「おい、俺たちって弱かったか?」
「いや、自分で言うのも何だが、少なくとも『宋国』では俺と対等に戦える奴はそういなかったはず」
武松の問いに答える魯智深の前で、赤い馬に跨った大男は笑みを浮かべながら答える。
「そう自信を無くすな」
「お前たちは強いが、俺がその『遥か上』を行っているだけだ」
「少なくとも、今俺の足元に転がっているやつよりは強かったぞ」
男が乗る赤い馬の足元には、虎の獣人が倒れていた。
「二人揃って半獣化にもなれるようだし、どうだ、お前たちも俺の下で働かんか?悪いようにはしないぞ?」
「有難い話だが、残念ながらもう俺たちは新たな王に仕えているのでな」
「俺たちは韓王に忠誠を誓っているのであきらめてくれ」
男の誘いを丁重に断る魯智深と武松。
「なるほど、国士無双の韓信か…」
「そうか、それは残念だ」
「ここで殺すには惜しいと思ったが…仕方あるまい」
ここで男は名乗りを上げる。
「我が名は『呂布奉先』!『飛将』とは俺の事だ!」
「さらばだ!名もなき猛者たちよ!」
「いや、俺たちにも名乗りを…」
名乗りを上げさせてもらえなかった魯智深たちに、愛槍『方天画戟』を二人に向けた呂布は、雷撃を撃ち込む。
「おわっあぶね!」
「くそっ!これじゃ近づけねぇ!」
次々と飛ばす雷撃を避けるのに精一杯の二人。
呂布が二人に集中しているときに、不意を突いた林冲が呂布の側面から槍を突く。
(もらった!)
心の中で叫んだ林冲だったが、呂布は視線すら動かさずに、そのままの姿勢で後ろに躱す。
「なんだと!」
思った林冲に、方天画戟の横払いが飛んでくる!
「くそっ!」
林冲は攻撃を槍の真ん中で受けて、そのまま弾き飛ばされた。
それと同時に、楊志が馬の後方から斬りかかると、今度は馬の後ろ脚が飛んできた。
「うわっ」
素早く蹴り出した馬の脚をのけ反りながら避け、楊志は馬の腰に当たって地面に転がる。
慌てて顔を上げた楊志の目前には、方天画戟が迫っていた!
(しまった!)
避けられないことを悟った楊志だったが、魯智深が武器の禅杖で馬の頭を突こうとしたため、間一髪馬が前足を大きく上げ、方天画戟は楊志の顔をかすめて地面に刺さった。
4人は一旦後方に下がり、武器を構え直す。
「なるほど、韓信はなかなかの武将を揃えているな」
「そう言ってもらえると嬉しいのだが、あなたが規格外すぎて、逆に嫌味に聞こえてきますよ?」
呂布の誉め言葉を、素直に喜べない林冲たち。
「ふっ、そう気にするな、俺が強すぎるだけだ」
呂布は短く返事をしたとき、二人の武将がユニコーンに乗り降り立ってきた。
「呂布様、ご指示通り元楚の兵法家『呉起』を発見、生け捕って参りました」
「そうか」
「俺も、虎の獣人になっていた『桓騎』を、先ほど生け捕ったところだ」
((なんだと!))
林冲と楊志は心の中で驚愕した。
(いま、秦の猛将・桓騎と天才兵法家・呉起を捕まえたと言ったのか?)
ちなみに魯智深と武松は誰の事だか分からなかった。
「呉起は今、『陳宮』の使役者が運んでおります」
「うむ、『高順』『張遼』よ、ご苦労であった」
「やはり『晴明』の占い通り、ここに進化前の人材が二人いたな」
(こいつら進化前の転生者を見つけることができるのか!)
呂布の言葉に林冲は、再度心の中で驚愕する。
「はっ!してこ奴らは?」
呂布に挨拶を終えた二人は、林冲たちを睨みつける。
「気にするな、お前たちを待つ間、暇だったので相手をしていただけだ」
呂布は笑みを浮かべて、4人に告げる。
「お前たちの王、韓信に伝えよ!」
「もしこの先、俺たちの覇道を邪魔するならば、その時がお前と国が滅びる時だと!」
そう言い終えた呂布たちは、気絶した桓騎を馬に乗せ、空へと舞い上がり天を駆け去って行った。