第161話 新たな出会いと再会
2日後、3人は西郷の部下に連れられて、ある屋敷へと向かう。
「ここは…長州藩の藩邸じゃないか!」
屋敷の前に立ち驚く陸奥と、それを知り同じく驚くピット。
やがて門の潜り戸から、長州藩士が現れた。
「お待ちしておりました、西郷さん達も中でお待ちです」
そう話すと、長州藩士はそのまま中へ案内する。
「私の名前は『伊藤俊輔』と申します、以後お見知りおきを」
そう自己紹介しながら、人懐っこい顔でピットたちに挨拶した。
広い部屋に案内されると、そこには裃を着た西郷が胡坐をかいて座り、隣に同じく裃を着た人物が、三味線を弾きながら、隣にいる女性と他の藩士らの前で唄っている。
「三千世界の鴉を殺し 主と朝寝をしてみたい」
「わしとお前は焼山葛 うらは切れても根は切れぬ」
「都々逸ですか?面白い唄ですね、『高杉』さん!」
ピットの嬉しそうな質問に、高杉は笑って答える。
「久しぶりだな、ピットさん!」
「この唄がわかるなんて、君とは話が合いそうだ!」
高杉は弾いていた三味線を女性に渡し、ピットの手を取った。
「ピットさん、君に逢えたお陰で、死ぬはずだった多くの仲間たちが死なずに済んだ!」
「その者達を代表させて、お礼を言わせてくれ!」
「説得はうまくいったのですね、よかったです!」
感謝の面持ちで話す高杉に、ピットは嬉しそうに返事をした。
高杉は振り返り、一緒にいた藩士たちに紹介する。
「このお方が『皆の命を救ってくれた』ラビット国のピット王だ!」
高杉の言葉を聞き、皆がお礼を述べる。
「ピット様、貴方が前世を思い出させてくれたおかげで、皆死なずに済みました」
「私の名前は『久坂玄瑞』、長州で藩医を務めちょります」
「一緒にいる彼は『入江九一』、私や晋作が一緒に学んだ『松下村塾』の仲間です」
久坂の紹介を受けて頭を下げた入江は、ここに居ない者たちの紹介を行う。
「先日の『池田屋騒動』にて捕縛された『吉田稔
「もしあなたが、高杉さんの前世を思い出させていなければ、私を含め、多くの仲間たちが先の未来を知ることなく、現世を去ることになっていました」
「ピット様、本当にありがとうございました」
涙ながらに頭を下げる入江達長州藩士一同。
「入江殿、久坂殿、私たちはこれから大きな仕事を成し遂げねばなりません」
「だから、あなたたちの力を前世での経験も生かして、共にこの窮地を乗り越えていきましょう」
ピットの言葉に、入江・久坂は手を取り感謝した。
その時、裃を着た一人の男が慌てて入ってくる。
「皆様、遅れてすまない!」
その顔の整った男は、ピットの前に座り自己紹介をする。
「ピット様、遅くなりました」
「私は長州藩家老を務めます『桂小五郎』と申します」
「この度はこの国の混乱に巻き込んでしまい、申し訳なく思っております」
「また、多くの仲間たちを助けて頂き、感謝の言葉もありません」
そう話し終え、すっと頭を下げる桂。
「初めまして、桂殿」
「我々も出来る限りの支援を行いますので、一日でも早くこの国を、騒乱の無い平和な国に戻しましょう!」
二人が挨拶を終えると、西郷が話始める。
「さて、皆揃いましたし、少し話をして参りますか」
「これからどこかに行くのですか?」
ピットの質問に、桂が答える。
「実はある『要人』が古都に来ておりまして、私が薩摩・長州との合同会談の準備を行っていたのです」
「ある要人?」
「はい、その方に、今ピット王が古都にいらしている事を話しましたところ、先方がどうしても会いたいと申されたのです」
「私と会いたい?一体どなたなのですか?」
「その方は、『大英海龍国』から新しく赴任された『パークス』公使です」
「『大英海龍国』ですか!」
ピットは喜んだ。
此方の方面は孔明が交渉を行っていたので、公使が会いたいという事は、孔明の交渉がうまくいっているという事と判断した。
「今から昼食を取りながらの会談となりますので、どうかピット様も一緒に同行してください」
「ありがとうございます、是非参加させて頂きます!」
こうしてピット達を含む、西郷・桂・高杉は、薩摩御用達の料亭『池田屋』へと向かった。
「ところでピットさんは、結婚はしているのかい?」
「してませんよ!結婚なんて、まだ考えもしていませんし」
ピットの風貌は20歳前後に見えるが、それは進化の為であって、実際は生まれて9カ月ほどであった。
「へぇ~じゃあ彼女とか好きな人はいないのかい?」
「いや、そういうのは全然まだです…」
「ワハハハ、そうかそうか、森の英雄もどうやらそっちの方は奥手らしいな!」
「おい晋作、ピット様に対して失礼だぞ!」
高杉らしい、ピットへの悪ふざけに怒る桂。
高杉の何気ない質問だったが、他の者は興味津々で聞く。
「そうか、ピットさんはまだ独身であったか…」
「そうか、そうか…」
西郷はその言葉を何度も繰り返した。
陸奥はそっとルクシルの顔を覗き込むが、特に何の変化もなかった。
「陸奥殿…僕の顔に何かついてるのかい?」
「いや…いつ見ても綺麗な顔だなと思って…」
その言葉を無視して歩くルクシルに、陸奥は違ったかな~と呟く。
そうこうするうちに『池田屋』へと到着する。
「西郷はん、お待ちしとりました」
女将の「トセ」がそう話し、皆を部屋へと案内する。
部屋の中では、大久保と田中新兵衛が中に座って待っていた。
「じゃあ一蔵さん、おいは入口で警備をしときます」
うむと大久保は頷き、田中新兵衛は部屋を出て、入れ替わりにピットたちが入ってきた。
「ピット様、我々も外の警護に回ります」
ピットも頷き、ルクシルと陸奥は部屋には入らずに、廊下で待機する。
「一蔵どん、『イワトモ』卿はどげんじゃった?」
西郷の質問に、大久保は笑みを浮かべながら答える。
「『イワトモ』卿は、ピット殿をこちらに引き込めたと思って大喜びじゃった」
「すぐに準備をするから、少しだけ時間をくれとの事じゃ」
「さすがは一蔵どんじゃ!」
大久保が卒なく成果を出したことを、西郷は素直に喜んだ。
「中の方、お客様がお見えになりました」
トセの言葉に返事をした、西郷の声の後に障子が開き、4人の人物が入ってきた。