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銅像のキモチ

作者: はやはや

 まったくイヤになる。私は腰を右側に少しくねらせて左手の平を上に向けて立っている。全裸で。

 夏は暑いし冬は寒い。当たり前のことだけれど私は全裸で屋外に立っているのだ。人間が体感しているより数倍は暑いし寒い。

 

 言っておくけれど変質者ではありません。ブロンズ製の銅像です。この街の若手アーティストにより私は製作され、市役所の入口前に寄贈されました。


 どうせなら美術館に寄贈されたかったわ。美術館なら屋内だから快適に過ごせたかもしれないのに。ポーズだってもっとバシッと決められたかもしれないのに。


 あぁ、でも勘違いしないで。今の場所でもバシッとポーズは決めているから。手を抜いていないわ。



 私が注目を集めたのは寄贈された時の式典の日だけ。あの日は私に赤い布が被せられ、市長らしき人や私を製作したアーティストが話をし、私がお披露目された。

 私が世に出るや否やカメラマンのフラッシュがバシバシ当たったのよ。誇らしい瞬間だったわ。


 次の日から私はただ、そこに佇むただの銅像になった。誰も振り向かない。銅像の運命がそういうものだということはわかっている。でも、時々これでいいのか? と思うこともあるの。芸術作品はもっと大切に扱われるべきじゃないかって。


 私の前を毎日多くの人間が行き交う。早足だったり反対に足が重い人間もいる。溌剌とした表情をしていたり楽しそうにお喋りをしていたり、スマホで話していたり、無表情の人間や怒っている人間もいる。

 それを見ていると人間は大変だと思う。仕事、人間関係、家族、お金、将来、老後。いろんな心配や不安を抱えている。生きていくって本当サバイバルね、なんて思う。


 私だって毎日サバイバルよ。

 飼い主と散歩をしている躾のなっていない犬にマーキングされそうになったり、買い物帰りのおばさんがいきなり私の頭の上にパック入りのしめじを乗せたり(間違えて買ったのかしら?)、酔っ払いに寄りかかられて酒臭い息を吐きかけられたりね。

 それでも私は動じず(銅像だけに うまいでしょ?)ポーズを決めている。そんな困った人間達だけれどたまに希少な部類がいるの。


 今、私のことをじっと見つめながら近づいてくる人間がいる。

 そう、この人間は銅像の私とコミュニケーションを図ろうとしている! 私の立ち姿を見て


『毎日おんなじ格好で立ちっぱなしって疲れるよな。お疲れさん』


 と心で言ってくれている。その人間は歩みを止めることなく私を見ながら去って行った。久々だわ。私とコミュニケーションを図ろうとしてくれた人間は。たまにこういう出会いがあるから私は銅像でいられる。久々にバシッとポーズを決めた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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