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失格教師と屋根裏の散歩者  作者: あまやどり
序章 失格教師の日常
8/51

失格教師と学校暮らし

章のつけ方を思い出しました(/・ω・)/

「学校なんか住んでも、不便で仕方ないだろ」

 好き好んでかどうかは知らないが、快適とは思えない。

「うんにゃ? 寝るとこも水道電気もあるから言うことナシの優良物件ですよん」

 学校ってライフラインが揃ってると言えば揃ってるのか。無一文で野宿するよりはよほどマシか。

 教師()だったら、職場に住むなんて金もらっても御免だけどな。

「暑ければどっかの部屋のエアコン使えばいいし、お風呂はないけど体育館下にシャワーはあるし。家庭科室に洗濯機もあるもん」

 あー。朝礼の時、事務が「電気代が嵩んでる」って言ってたが、さてはコイツが原因か?

「15000平方メートルのマイホーム」

「学校の敷地面積じゃねえか」

 さっき“狭いながらも楽しい我が家”とか言ってなかったか?


 こんだけ荒れてるってのに、S商のセキュリティははっきり言ってザルだ。なにせ、防犯カメラが正門以外に1つもない。

 防犯装置がついてるのは職員室、校長室、事務室、進路指導室に生徒指導室ぐらい。他は素通しだ。

 用務員も宿直もなくなった今では案外泊まり込んでてもバレにくいのかもしれない。

「住んでるって、どのくらい住んでるんだ?」

「んー。……引っ越して3週間ぐらい?」

 長いな。まさか逃亡犯とかじゃないだろうな?

「でもな、親から捜索願いとか出たら……」

 どうにか自主的に退去してくれんものかな。

「ご安心召されい。アタシは育児放棄されてるので、親が探すことはゼッタイにないから!」

 安心する要素がどこにも見受けられないんだが。


 校内放送が響き渡った。

『緊急全校集会を開きます。全生徒は、至急体育館に集まりなさい』

 生徒指導部主任の声だ。即座に校舎のすべての階から「えー!」というイラつきとか怒りとかガッカリとかがブレンドされた悲鳴が響いた。


 生徒指導部は、生徒の服装や髪型、素行の違反を指導するところで、進路指導部と違って活動は学校内部に限られる。が、この学校に限っては多忙極まる部署だろう。しかも生徒から恨まれる。

「物騒ね~。ナニがあったのかしら」

「お前のことだよ、屋根裏の散歩者」

 緊急集会で盗難の件を追及するのだろう。

「あらら、お気の毒」

 皮肉を言ってやったが、当事者にはのれんに腕押しだった。

 密約を交わした以上、俺も「おそれながら」と同僚に訴え出るわけにはいかない。

「俺も行かなきゃならん。いいか、ココから出るなよ?」

 釘を刺しておく。

「は~い。アタシ約束は破ったことないよん。清純派ですから」

……どうやら、俺は(ぬか)に釘を刺したようだ。

 誠意をまるで感じない返事に見送られて、俺は宿直室を後にした。

 さて、クラスを1つ1つ回って、施錠とサボりがいないかのチェックしとかないとな。


 クラスを回って、施錠とサボりがいないかのチェックをしなければならない。見回りを終えて階段に差し掛かると、酒石先生が生徒を呼び止めている場面に出くわした。

 話してるのは……げ、捨見じゃねえか!


 めでたくない邂逅に悪態をつきたくなるが、引き返すには遅すぎた。

「そこの子! スカート短すぎ! ピンクのパンツが見えてるわよ! ねえそうでしょ、九字塚先生!」

 デカい声で俺を巻き込むな馬鹿野郎!


 酒石先生はデリカシーがないことで有名な女だ。

「ゴメンね~みどりちゃん」

 捨見はこっそり俺に目くばせすると、振り返りもせず駆けて行った。

「こら、ちゃんと顔を見せなさい!」

 酒石先生が怒るが、お構いなしにさっさと行ってしまった。


 体育館に集められた生徒たちは好き勝手にしゃべっており、静かになるまでに7分を要した。

「えー、私がどれだけショックを受けてるか、分かりますか?」

 生徒指導部の主任が暗い声で呼びかける。

「そんなこと生徒は言われても“知らんがな”ですよね」

 隣の福島主任に話しかける。

「反抗期真っただ中の中高生にとっちゃあ、大人はただ大人ってだけで気に入らない存在だからな」

 主任も、この無駄な時間に退屈していた。

「本日、2年生の教室で――」

 ようやく本題に入る。

「該当する生徒を見たという生徒は、あとで生徒指導部に来てください」

 学校内で盗難事件や暴行事件が起こるたびに似たような呼びかけをやってるが、もちろん生徒が自首したことはない。見た生徒がいたとしても、わざわざ言いに来る者は少ないだろう。


 ま、今回に限っては犯人ははっきりしてるんだがな。


 俺みたいな半部外者からしてみれば、言い方が甘いなあ、と思う。「必ず犯人を見つけ出して、弁償させるぞ!」ぐらい言ってもバチは当たらないと思うけどな。

 おしゃべりに終始している生徒が多く、なぜここに呼ばれたか、理解もしていないに違いない。

 集会は10分ほどで終了となった。


 捨見には訊きたいことが山ほどあったが、授業があったのでいったん引き下がる。手に負える気がしなくて逃げ出したとも言う。

 とりあえずは捨見の窃盗及び不法滞在を見逃したことになるが……仕方ないよな。


 捨見の指摘通りなのは癪だが、このまま通報したら“余計な事しやがって”と詰め腹を切らされるのは必定だ。教師は倫理を説くが、当の教師が倫理を備えてるとは限らないから悩ましい。


 だが近いうちに、学校から追い出してやる。俺の平穏のために。



【4月24日(月) 20:03】


『オレっす。川中です』

 川中から電話があったのは、20時を回ったあとだった。

『ようやく警察から解放されましたよ』

 声に疲れが滲み出ている。

「お疲れ。どうだった?」

『疑いはまあまあ晴れたっぽいけど、いろいろ嫌味言われましたよ。“防犯会社が強盗に入られてどうするんだ”とか』

 防犯会社の面目丸潰れだよな。社長一家が帰ってきたとしても、看板に傷がついたわけだから、今後の商売は危ういかもな。

『警察は、16日の深夜に襲われたんじゃないか、って』

「じゃあ、長期休暇に入る直前に襲われてたってことか?」

 長期休暇前を狙われた、と言わないか、それ。現に、事件の発覚に8日も経過してる。

『だから、周辺のカメラ調べてもなかなかめぼしい情報が出ないそうで』

 現代は店や駐車場にカメラがいくらでも設置してある時代だ。が、8日経っていたら映像は上書きされてしまっているケースが多い。


『“被害額は?”とか訊かれてもよく分からんし。帳簿ひっくり返して、1200万ぐらいって答えたけど』

「大金だな」

 景気が良かったんだな。家族経営の中小企業ってのは急な取引のために現金で管理してる所が多いと聞くし。

 付近に家が少なく、まとまった現金がある家。強盗に狙われる条件が揃ってる。カモがネギと鍋を背負ってる状態だ。カモの居所を、強盗がどうやって知ったかは不明だが。

『他には営業記録とかアルバムもなくなってた気がするけど、被害額に計上出来ないし』

 エプロンを盗む泥棒もいることだしな。それにしても、強盗団が横行してるので防犯の要請が増えて繁盛していたのに、それが原因で当の強盗団に狙われたってのは、なんとも皮肉な話だ。

「社長一家の安否は?」

『これから調べる、って。夜逃げの可能性もあるって言ってた』

「んなアホな」


 まあ、詐欺グループから押収した8000万円を着服するF警察だからな。ネットで「F警察」を検索すると、「F警察 横領」と真っ先に候補が上がってくる程度には、F警察の信頼度は低い。


『それで、先生。オレ失職しちゃう可能性が高い気がするんだけど、もしそうなったらなにか紹介してくれない?』

 S商に来る求人は新卒限定だ。そもそも卒業したヤツの就職を支援してやる義理は全くないんだが。

 これも縁だ。仲の良い企業に話だけはしておいてやるか。今回の件、川中はただのとばっちりだしな。




【――――】


 しくったー。

 まさかこの部屋まで押しかけてくるなんて。計算外もいーとこ。いつもだったらつっかい棒で鍵しとくのに、あれやこれやあって忘れてたのが一生のフカクだわ。

 なぜだか、巡回時間がいつもより遅かったのも原因ね。教師なら時間ぐらい守ってくれなくちゃ。


 でも、結果は上首尾。紆余曲折あったけども、教師を1人、引き込むことができた。

 それも木林とか言う、うすっとろそーなのじゃない。かといって教師の使命感を盲目的に信奉しているわけではないタイプ。教師には珍しい。


 ただし、疑い深い性格みたい。常に一歩退いた、露悪的な考えをしているように思える。脅迫に近い形で協力を強いている現状は、あまり長続きしないかしらね。


 スマホが震えた。LINEの通知だ。亀裂の入った画面を見る。



カワセミ:ハンセーしたか? 俺に逆らうと居場所なくなるぞ。


 返事を返す。


ステミ:はい。ごめんなさい。私が悪かったです。


カワセミ:なら、今後はオレの指示に逆らうなよ? またぶん殴るからな! テメーにアタッチメントはねえ。


 アタッチメントって何さ? ときどき変な言葉を使う悪党だ。横文字使うのが賢いと思ってる意識高い系?


ステミ:また仕事紹介してください。お金が必要なんです。


カワセミ:よし、また日時を指示する。


ステミ:どこでやる予定?


 それ以降、質問を送っても返事はなかった。横暴。でも、下手に出とくしかない。


 お金。アタシにはお金が必要なんだ。


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