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失格教師と屋根裏の散歩者  作者: あまやどり
終章 失格教師と屋根裏の殺人者
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失格教師と隠し場所

「進路指導部なら」

 進路指導部は、企業訪問などで仕事中に学校外に出ることが多い。

 そのほとんどの企業はF市内にある。土地勘は付き、近隣企業の内情を知ることも多い。

「逆に、生徒指導部は外部との接触がほとんどない」

 祭りとかのイベント時に見回りとかしてるが、年に数回しかない。能力的にできそうなのは巻代先生だけだしな。でも、どうしても巻代先生が犯罪をするイメージができない。まともに働いて充分出世できるのに、非合法に手を染める理由がない。

「犯人はお前だー!」

「アホ」

 まあ俺も進路指導部ではあるが。


「あと疑問点は、カワセミは吸い上げた金をどう保管してるんだろうな?」

 銀行に預けても、出処不明の金は思いっきり怪しまれる。公務員である教師ならばなおさらだ。さらに、被害者が番号を控えているかもしれない。

「目立たないコインロッカーあたりに隠してるんじゃない? んで、カギをどっかに保管してる」

 やっぱりその辺りか。


「カワセミの正体を突き止めたとして、だ。そいつの家に侵入して鍵を盗むのか?」

 コイツが様々な侵入方法を知っているのはさんざん見て来たことだが、小さな鍵を探すのは大変そうだ。

「してみてもいーケド。たぶん家にはないと思うワケ」

 気乗りしない様子の捨見。

「根拠は?」

「カワセミの気持ちになってみ? 手足にしてた連中に万一身バレしたら、あべこべに強盗されちゃうっしょ?」

「ダークウェブの闇バイトに応じるような連中に倫理とかないわな」

 家探しされたら見つかるようなところには隠さないか。

「しかも、教師ってほとんど家にいないもんな。大金隠してる身としては不安でしょうがないか」

「そーゆーコト。センセもようやく犯罪者のキモチになって考えることができるようになったわね~。感慨深いわ」

「何でお前が教育者目線なんだ」

 あいかわらずコイツの賞賛は釈然としない。

「じゃあ、肌身離さず持ち歩いてる?」

「それもマズいっしょ? 身バレして捕まったら一巻のオワリですわよ」

 思考の迷路にはまり込んだぞ、おい。


「ならどこなら安心な隠し場所なんだよ」

「ドコだと思う?」

 この口調。捨見にはもう見当がついてるってことか。そして、俺も気付くはずだと目が言っている。

 安心できる場所。すぐに目をつけられず、他人がうろつかない。あ。


「……学校内か!」

 そうか。学校はただの職場じゃない。部外者は出入りできないから。ほとんどいない家よりも安全性が高い。

「それも、防犯設備があるトコ。でないと不安だろうし~」


 さてはコイツ、もうある程度探して回ってやがるな。


「なら、校長室、職員室、事務室、生徒指導室、そして進路指導室の5つだな」

 少々考え込む。

「職員室は外せるかな」

 すぐ1つは除外した。

「ど~して?」

「夜中の防犯面は完璧だけどな。むしろ日中の方が不安だ。生徒や業者が頻繁に出入りしすぎる」

 大事なものを隠しているなら、気が気でないだろう。

「業者って何さ?」

「宅配弁当の会社とか出版社とかだな」

 教師は同族意識の塊みたいな人間が多い。裏を返せば、それ以外の人間には関心が薄い。

 業者の顔を覚えてるなんてことは少ないから、今まで見たこともないスーツの男が入ってきても、名刺1つで納得するだろう。

「な~る。順調に絞れてるワケ」

 捨見は進捗に満足した。



【5月15日(月) 22:05】


 福島先生や若貴先生はベテランだ。何もこのタイミングで慌てて連続強盗事件を計画する必要はない。モラルもしっかりしている。

 岡先生は軽薄な一面もあるが、目下子育てに夢中。子煩悩で充実した生活をしている。カワセミ稼業などに精を出す時間はない。


 キバヤシはモラルはなさそうだし、流されやすい性格だが、強盗の計画を練る能力がない。また、生徒に人望がまったくないので、情報を集めることもできない。


「“友だち教師”を演じて、生徒に取り入ってたんだな」

 友だちとして接していれば、気を許す生徒も出てくる。

 さらに、カウンセリング担当でもあることも大きい。生徒の相談に乗っていれば、私生活や生活パターン、経済状況なども掴みやすい。


「私、そんなに暇じゃないですよ」

 目の回る忙しさだったのは事実だろうな。

「土日も部活、練習試合、懇親会と働きづめの大活躍でしたね。……来年転勤(・・・・)だもんな」

「――!」 

 この事実に気付いて、俺はカワセミの「急ぎ働き」の原因を知った。


 新規採用の教師は必ず4年勤務することになる。F市ではそういう取り決めだ。逆に言えば4年目には必ず他校に転勤する。

 酒石は今年4年目。転勤したら今まで集めた情報がパーになる。


「4年目で転勤すること、去年まで知らなかったんでしょ?」

 だから、短期間に連続して強盗をすることになった。

「ふん、前々から間の抜けたバカだと思ってましたけど、とんでもない冤罪かけてくれますね! 証拠はあるんですか?」

 目を剝いて、噛みつくように叫ぶ。だがこれは、逆上しているふりだろう。荒い物言いに反して瞳は冷えている。

 言いくめられそうか。俺の言動に破綻はないか。論点をずらせないか。そんな思惑が目から窺える。これはツルハシ相手にやりあった経験が生きた。


「根拠、他にもっともらしい根拠はないんですか?」

 ドラマの犯人みたいなセリフだ、と妙な感慨を抱く。

「うーん、根拠、とは若干違うかもですけど。犯人はカワセミって名乗ってるらしいですね。カワセミって鮮やかな青色の小鳥ですよね?」   

 水辺とかに棲息してる鳥だ。

「……そう聞きますけど?」

「青色ですけど、漢字で書くと“翡翠(かわせみ)”なんですよね。これ、別の読みがありますよね?」

 表情が翳った。

翡翠(ひすい)

 1つの漢字の組み合わせで、2通りの名前があるわけだ。

「で、翠って“みどり”って読みますよね? 緑の宝石で且つ、カワセミは(みどり)()という意味」

 ちなみにカワセミは中国名で翠鳥(そにどり)だ。

「で、酒の字を分解すると、さんずいに(とり)。つまり“水辺の鳥”。“水辺の緑石()()”。随分洒落たネーミングですね。酒石(みどり)先生」


 こじつけ、と非難するには念が入っている。性格的に漢字にこだわるタイプじゃないから、たぶん家族か彼氏にでも指摘されたんじゃないかな。


「最近、署名に“さけいしみどり”ってひらがなで書くようになったじゃないですか。あれ、女子生徒の流行りじゃなくて、万一漢字で疑われたら、って危惧したんじゃないですか?」

 知っているからこその不安があったのだろう。

高校生どもに影響受けたのかと思ってたけどな。「……」

「まあ、アンタが認めようと認めまいと、実は俺にはどーでもいい。汚い金がどこに隠してるかさえ分かればな」

 酒石――カワセミがビクリと身体を震わせる。


 カワセミはどこに鍵を隠しているか?

 部室棟の管理を任されてるのだから、部室か空き部室に隠すか?

 難しい。捨見は、叩くだけで部室の鍵を開けて見せた。つまり鍵は張り子の虎で、鍵の役目をはたしていない。

 そして、手癖の悪い生徒はいくらでもいる。部室内での盗難は学校全体の盗難件数の4割を占めるぐらいの危険地帯(デンジャーゾーン)だ。


 例えば、ソシャゲの課金のためだけにタブレット大量盗難するような生徒もいる。連続強盗を計画しているカワセミが、そんなことに気付かないはずがない。


 なにより、気軽に安全を確認できる場所でなければ不安だろう。現にタブレットを大量に盗んだ生徒は、窓から確認できる駐輪場を選んでしまったせいで発覚した。


 かといって机の引き出しやカバンの中も安全ではない。体育祭の時のように、教頭たちの無断私物チェックがある。世界一世間体を気にする教師の社会では、一度疑われたら徹底的な検査が入る。特に友だち教師のカワセミは、生徒に便宜を量ってる疑惑があることだしな。


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